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我慢や頑張りすぎをやめ、弱みを見せたほうが人は育つ

2024年12月19日 公開

小室淑恵([株]ワーク・ライフバランス代表取締役社長)

小室淑恵

部下のワーク・ライフバランスを守るためには、リーダーの自分が頑張るしかない──そんな自己犠牲的な頑張りの先に待つのは、切なすぎる現実だと、ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵氏は指摘する。仕事や我慢を抱え込んでつい頑張りすぎてしまうリーダーたちは、考え方や行動をどのように変えていけばいいのだろうか。(取材・構成:林加愛)

※本稿は、『THE21』2025年1月号特集「人が育ち、チームも伸びる 最高の任せ方」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

「隠れ我慢層」の切ない現実

――現在、中間管理職、とりわけ女性リーダーが「隠れ我慢層」になっている、と小室さんは指摘されています。我慢層とはいったい、どのような人たちなのでしょうか。

【小室】ひと言でいうと、真面目で責任感の強い人たちです。特に女性リーダーは「あとに続く女性たちのためにも失敗できない」と思いがちで、しばしばキャパシティを超えた仕事を、家事育児も含めてやりきろうとします。元来高い能力やタフネスを持つ人が多く、実は限界でも「我慢できてしまう」傾向もあります。

――我慢している自覚がない、という可能性もありますね。

【小室】そうですね。それで言うと、性別を問わずよく見られるのが「プレイが多いプレイング・マネジャー」。会社から命令されたわけでもないのに、すぐに現場に出張ってしまうタイプです。

背景にあるのは、今どきの職場の欠員の多さです。育休や介護などでしょっちゅう誰かが休む状況下、このタイプの人は「ここは私が!」と反射的にカバーしてしまいます。すると感謝されるので、さらに頑張りたくなる。しかしそのサイクルの先には、かなり切ない結果が待っています。

――「切ない」結果ですか?

【小室】はい。そんな姿を見た部下や後輩は、こう思います。「リーダーってあんなに大変なのか」「私には無理、やりたくないわ」と。そう、本人が頑張れば頑張るほど、あとに続く人たちがいなくなるのです。部下もチームも成長せず、業績も伸びず......なんとも皮肉ですよね。

――切なすぎます。この問題、突破口はあるのでしょうか?

【小室】あります。要は、仕組みづくりです。部下の成長をモチベートするような任せ方の仕組みをつくれば、状況は変わります。

――それは、どのような仕組みなのでしょう。

【小室】私がお勧めしているのが、「戦闘力の見える化」。メンバーの名前を書き出し、各人の戦闘力=どのレベルの仕事を任せられるかを10段階評価します。6人いるとして、戦闘力が「9・7・7・3・2・2」なら、計30の仕事を部下に任せていることになりますね。

そして、チームに求められる仕事量が50なら、残り20を上司が引き受けているということです。 上司が引き受けている20を減らすには、最も伸びしろのある3・2・2の部下が狙い目。彼らを「4・4・3」にするには何が必要か、と考えて、任せる仕事を決めます。本人にも「あなたがこのレベルまで成長するための仕事だよ」と説明すれば、意欲を持って取り組んでくれます。

メンバーの戦闘力を数値化

――まさに「最高の任せ方」です。ただ、多忙だとそこまで考えられないときもあるのでは?

【小室】常に完璧に行なう必要はありません。重要なのは、数値化によって上司自身の意識が変わることです。「彼の、彼女の数値をあと2つ上げたい」と認識していれば、発生したタスクに対して「とりあえず自分が」ではなく、「彼にぴったり? まだ無理?」という発想が持てます。

――反射的なカバー癖を解除することができますね。

【小室】そうです。この方法を導入すると、業績は本当に上がります。ある程度時間はかかりますが、だからこそ上司が最初に「必ず良い結果が出る」と信じることが不可欠です。

 

日本の人口構造上 無理と我慢は先がない

――「信じる」は大事ですね。能力の高い人ほど「でも、自分でやったほうが早いのでは」と思いがちですが、どうすればマインドチェンジできるでしょう。

【小室】それには極意があります。「日本の人口構造」という大きな視野で捉えることです。すると、これからは一人で頑張ることさえも不可能だ、とわかるはずです。

――どういうことでしょう?

【小室】働き手一人ひとりを、一本一本の棒グラフにたとえると、今は「縦方向」、つまり一人がプライベートを削って棒を伸ばし、労働量を増やす形です。しかしこの方法に先はありません。今後、日本の労働力人口が激減するからです。

――頭数が減れば、一人が少々頑張ったところで......。

【小室】焼け石に水、日本終了です(笑)。でも「横方向」で考えると違った世界が見えてきます。つまり、未発掘の労働人口に少しずつ時間を提供してもらえばいいのです。例えばシニアの方々。約1700万人の65歳~75歳人口のうち、多くの方々が「短時間なら働きたい」と思っています。

また、パートタイマーにも「正社員だと残業があるから」と、あえてパートにとどまる方がいますね。長時間労働のない職場なら、その方々も正社員に加われます。こうして少しずつ時間を出し合えば、膨大な伸びしろになります。日本はまだまだ経済成長できるのです。

――視野が一気に広がりました!国全体に起こることは、自分のチームでも起こりますね。

【小室】その通りです。それには、リーダー自身が横方向のアクションを起こすことが大事。そうしなければ、自身の評価も下がりかねません。会社も、旧来の縦型リーダーより、横型リーダー=多様な人材を活用できる人を求めるようになるからです。そこを先読みし、新しいマネジメントスキルを身につけましょう。

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著者紹介

小室淑恵(こむろ・よしえ)

(株)ワーク・ライフバランス代表取締役社長

大学卒業後、㈱資生堂を経て、2006年に(株)ワーク・ライフバランスを設立。3,000社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げるコンサルティング手法に定評がある。残業削減した企業では業績と出生率が向上。「産業競争力会議」民間議員など複数の公務を歴任。2児の母。

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2025年1月

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発売日:2024年12月06日
価格(税込):780円

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