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我慢や頑張りすぎをやめ、弱みを見せたほうが人は育つ

2024年12月19日 公開

小室淑恵([株]ワーク・ライフバランス代表取締役社長)

 

優しい我慢層はあるとき豹変するかも!?

助け合うチームが育つ朝メール

――他方、「優しすぎる」タイプのリーダーもいます。「部下に負担を掛けては気の毒」と、つい肩代わりしてしまう人にもぜひ、マインドチェンジの秘訣を教えてください。

【小室】このタイプの方は、自分の体調に着目しましょう。そこを放置すると、優しいはずの方が、あるとき豹変する恐れがあります。

――豹変ですか!?

【小室】その状況では労働時間が延びて、睡眠が不足しますね。睡眠不足の上司ほど部下に侮辱的な言葉を放つ率が上がる、と論文で立証されています。感情の発生源である脳の扁桃体が過剰活性を起こし、怒りや苛立ちを抑えられなくなるのです。

――元々は優しさから出たことだと考えると、これまた皮肉です。

【小室】もう一つ、カリフォルニア大学にも興味深い研究があります。サマータイム制度がある州では、その時期に入ると時計が1時間進められ、住民は一時的に睡眠不足になります。その間、慈善団体への寄付額が、なんと10%も減少するそう。他者のSOSを察知して動く脳の部位が、働かなくなるからです。

――寝ないと「助ける能力」が減るのですか。驚きです。

【小室】とすると、リーダーだけの問題ではないこともわかってきますね。睡眠不足のチームは、助け合えないチームになります。育児中のメンバーをカバーする独身メンバーが怒りを抱える、世に言う「子持ち様論争」も、実はこのあたりに原因あり。全員が1日7時間の睡眠をとれる環境が必要です。

――心身の健康を保つには7時間睡眠、とよく言われますね。

【小室】睡眠時間のうち、6時間は身体を回復させる役割を果たし、プラス1時間で脳のストレスが取り除かれると言われています。育児中や介護中といった事情が「ない」メンバーも含め、全員が我慢せず、助け合うチームづくりを進めてほしいですね。

――そのようなチームをつくるには、何から始めればいいでしょう。

【小室】私たちが社内で実践し、クライアントの皆さんにも勧めているのが「朝メール」「夜メール」という仕組みです。

朝一番にその日の仕事内容とスケジュール、および「今日のコンディション」をチーム全員に送り、夜にも達成状況を報告し合うのですが、特に有効なのが朝メール。全員の仕事内容が見えるので業務の偏りが防げますし、「○○の件が不安です」「娘が熱を出しています」などのコメントを元に、いつ、誰をフォローすべきかもすぐに把握できます。

――メンバー同士の助け合いも促進されそうですね。

【小室】まさに。メンバー間だけでなく、時にはリーダーを助けてくれることも。すると、リーダーには余裕ができますね。結果、「ビジョン」に思考を割けます。自分たちの仕事の社会的意義、実現したいことなど。

――そんなに大きな効果が......。

【小室】朝・夜メールにビジョンを書くリーダーも多いです。意外なことに、これも時間短縮につながります。大きな方向性が提示されているので、部下は、各業務がそれに沿うか否か、判断できるからです。優先順位のつけ方が変わり、無駄な動きがなくなります。これも大きな意味での、良い任せ方と言えるでしょう。

 

リーダーの弱みが部下を成長させる

――小室さんご自身は、今の任せ方に至るまでに、壁にぶつかった経験はありますか?

【小室】大ありです。最初の壁は、出産直後に当社を起業したときのこと。極度の睡眠不足で、部下にキツい言葉を発するダメ上司になっていました。その失敗を経て、今お話しした「コンディションの情報共有」という方法にたどり着いた次第です。

――そういうことでしたか。試練が活かされましたね。

【小室】幸か不幸か、試練には事欠きません。その後も親族の介護をした時期あり、長男が大病を患った時期あり、不妊治療をした時期あり。さらには、夫のシンガポール赴任が決定。家族全員で助け合う必要があったので、私も2年間シンガポールへ。実は半年前に戻ってきたばかりです。

――海外にいらしたのですか。知りませんでした!

【小室】あえてオープンにせず(笑)、働く場所や時間が違っても経営はできるということを実践していました。数カ月に一度の帰国以外は、すべてオンラインで対応。加えて、これまでの仕事の多くを部下に任せました。その結果、今は政府の仕事を含め、数々のコンサルティングで、部下に指名が来るようになりました。 リーダーのピンチは、部下の自立の最大のきっかけです。

「私がなんとかしなければ」という、良い意味での危機感が成長を促すのです。ですから、リーダーも積極的にSOSを出すべきです。業務があふれてしまったときのSOSのほか、不得意分野のフォローを頼むのもお勧めです。 能力の高い人ほど、弱みを見せるのには抵抗感があるでしょう。

しかしどんなに優秀でも、一人の能力には必ず限界があります。多数のメンバーに多様な能力を提供してもらうほうが、はるかに大きな力になるのです。 それを引き出し、そのつど感謝する。そうしたコミュニケーションの中で、自分も部下も、チームも組織も、大きく育っていくのです。

 

【株式会社ワーク・ライフバランス】
 https://work-life-b.co.jp/

【朝メールドットコム】
https://work-life-b.co.jp/service/asacom.html

著者紹介

小室淑恵(こむろ・よしえ)

(株)ワーク・ライフバランス代表取締役社長

大学卒業後、㈱資生堂を経て、2006年に(株)ワーク・ライフバランスを設立。3,000社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げるコンサルティング手法に定評がある。残業削減した企業では業績と出生率が向上。「産業競争力会議」民間議員など複数の公務を歴任。2児の母。

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発売日:2024年12月06日
価格(税込):780円

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