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50代部長の肩書きは資産ではなく「負債」 目減りする市場価値を上げる5つの方法

2024年11月19日 公開
2024年11月25日 更新

間中健介(茨城大学講師)

50代からの人材価値の磨き方

平均寿命が延びる一方で、年金は減額されていく可能性が大。ミドル世代も働く期間がさらに長期化することを見据えて、「稼ぐ力」を維持していく必要がある。そこで『THE21』2024年10月号では、派遣社員を経て様々な職場で自らの人材価値を磨き、内閣官房企画官(室長級)として活躍した間中健介氏に、ミドルからの人材価値の磨き方を聞いてみた。

※本稿は、『THE21』2024年10月号特集「50代で必ずやっておくべきこと」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

まずは「現実」に目を向けることから

50代が置かれた厳しい状況

ここ10年で、日本の「マジメなミドル世代会社員」が置かれた状況は激変しました。デジタル化や業務効率化を通じて業務の難易度が格段に上がり、同時に業務量も増加。なのに、賃金は緩やかな右肩下がりです。

私が厚労省の調査をもとに算出したところ、日本の大企業に勤める40歳大卒正社員の賃金は、2016年から2021年までのわずか5年間で、1割ほど下落していました。背景には、コロナ禍の景況悪化、定年延長によるミドル世代の賃金調整、残業抑制等があります。

そんな中で物価の急騰も襲いかかっているのですから、実質賃金はそれ以上に下がっています。私たちの「労働の価値」が急速に目減りしているのです。漫然と会社員でいることのリスクが、あからさまに高まっているとも言えるでしょう。

ピンとこないという方は、毎年届く「ねんきん定期便」を確認し、年金の見込み額(50代以上の方にのみ記載)を通して現実に目を向けましょう。きっとその額は、皆さんが考えるよりずっと少ないことと思います。

そのうえ、皆さんが年金を受け取り始めるまでには、物価も大きく上がります。このため実際は、今「このくらい」と思ったその感覚より、実質的に少ない支給になる(物価上昇分ほど 年金の額は上がらない)のです。

すでに「給与も年金も目減りする時代」が到来しています。定年や役職定年までの時間が残り少ない50代の方々は、第2の人生を生き残るために、早急に自分の人材価値を磨き直す必要があると言えるでしょう。

 

肩書きは資産ではなく「負債」だと考える

自分が習得してきたスキルを書き出そう

自分の人材価値を高めるためにぜひ取り組んでいただきたいのが、上図で示した「キャリア資産のバランスシート」を書き出してみることです。

中でも特に着目していただきたいのが「負債」の項目。肩書きや会社の看板など、多くの方が資産と感じているものが並んでいて戸惑われたかもしれません。しかし私は、これらは「負債」だと考えています。

なぜなら、これら自体が勝手にスキルになるわけではないからです。肩書きは、あなたに権限と責任を付与するもの。もし部長になれても、部長として成果を出し、新たなスキルを身につけなくては、それは資産になってくれません。

よりわかりやすく言えば、肩書きや会社の看板は、会社からの「貸付、融資」とも表現できると思います。部長になったからといって、その後「ついに部長になれた。これで人生安泰だ」と無為に任期を終えてしまえば、その人は「部長になったのに何もせず、成長もできなかった残念な人」になってしまうのです。

昔であればそれでも部下たちが成果を出してくれたかもしれませんが、競争の激しいこの時代では、そういうわけにもいきません。

 

今後の目標を決め、それに向かって努力する

肩書きや会社の看板といったものは負債になりますが、当然それを通じて得たスキルなどは「資産」と考えてOKです。

資産の中でも、誰もが必ず強化すべきと感じるのが「目標を立てる力」です。もちろん企画力やITリテラシーといったスキルも重要ですが、ミドル以後のキャリアを自らの手で切り開くには、この力が不可欠だと思います。特に目標がないという方は、何か一つ、趣味に関することでもいいので目標を立ててみるといいでしょう。

また、今や70代半ば頃まで働くのも普通の時代。今50歳の方も、まだあと25年も残っています。会社員として定年に怯えるのではなく、自分のタイミングで「起業」することを目標にするのもお勧めです。

今さら起業なんて、と思われるかもしれませんが、日本政策金融公庫の調査によれば、日本で開業した人の平均年齢は43.7歳だそうです。これは日本に限ったことではなく、例えばシリコンバレーなどでも40代や50代の起業はよくあります。読者の方の周りにも、一人くらいは起業した知り合いがいるのではないでしょうか。

 

目標を決めて邁進するには

思考の「断捨離」が必要そう言われても、目標なんてすぐには思いつかないという方もおられるでしょう。

そういう方には、ぜひ自分の中の優先順位を考えてみることをお勧めします。自分の大切なものや譲れないものを端から書き出し、並べ替えてみてください。

自分では決め切れないという方は、友人などの第三者に意見を聞いてみるのも面白そうですね。もちろん友人の言いなりになる必要はありませんが、第三者の視点が入るだけで「確かにそうだ」とか「全然賛同できないな」などと、自分の考えがクリアになるものです。そうなれば、目標が定まりやすくなるだけでなく、行動のハードルも低くなっていくことと思います。

それでも目標がはっきりしない方は、ひとまず「少し難しめの資格」を目指してみてはいかがでしょう。比較的手軽なものなら「情報セキュリティマネジメント」などがお勧めです。

なぜ「少し難しめ」を推すかというと、リスキリングが流行する中でも、中級以上の資格は受験者数があまり増えておらず、資格の希少性が保たれているから。難関資格を突破すれば自己肯定感も高まりますし、今後のキャリアを切り開くうえでも立派な資産になるはずです。

本気で取り組むのなら、ミドルからでも「行政書士」や「気象予報士」あたりは狙う意義があると思います。

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著者紹介

間中健介(まなか・けんすけ)

茨城大学講師

1975年生まれ。派遣社員、コンサルティング会社社員、衆議院議員秘書、電通子会社社員、創薬関連団体役員などを経て、内閣官房企画官として8年超にわたり成長戦略の企画立案に従事。2021年より慶應義塾大学大学院特任助教、23年より現職。キヤノングローバル戦略研究所「政策人材プロジェクト」サブリーダー。企業団体の人的資本経営を支援。著書に『キャリア弱者の成長戦略』(新潮新書)などがある。

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2024年12月

THE21 2024年12月

発売日:2024年11月06日
価格(税込):780円

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