2024年10月22日 公開
――劇団という大きな船を率いる船長として、三宅さんが今も昔も心に刻んでいることはありますか?
【三宅】まずは演出家として、嘘をつかないことです。SETはコメディーを上演する笑いの劇団。コメディーは、いつも舞台上で結果が出るんです。
上手くいくときは、ドーッとウケる。でも笑わそうとして上手くいかないと、劇場はシーンとするわけですよ。シーンとした場面が続いたら、誰も僕についてこないですよね。僕の言った通りに演技して、シーンとなっているわけですから。
一方、ウケれば、役者自身が気持ちよくなる。劇団員が「三宅の言う通りにやるとウケる」と、きちんと思える。そういったことの繰り返しで、「三宅の言うことを聞こう」と信頼してくれるようになるんですね。
――SETは、ミュージカル・アクション・コメディーを標榜しています。爆笑の連続で、音楽でも楽しませ、最後に感動できるお芝居です。人を笑わせるのは大変なことですが、稽古場で大事にしていることはどんなことでしょうか?
【三宅】厳しく言ったほうが伸びる役者と、そうでない役者といますけども、だいたい厳しく言うとダメですよね(笑)。なぜかというと、僕たちがやっているのはコメディーだから。気持ちが乗っていないとダメだから。
稽古場の雰囲気がそのまま舞台で出るのがコメディーなんですよね。優しく説明して、劇団員の良いところを褒めて、気持ちを乗せるほうがいい。舞台を楽しくするには、稽古場も楽しい雰囲気じゃないと、ということはいつも考えています。
――それにしてもコメディーを演出して教えるのは、かなり難しいことですよね。
【三宅】コメディーは、人間の感情のぶつかり合いで面白くなるんです。だからなかなかウケない役者には、気持ちを説明します。「この設定のオチの面白さに対して、手前で気持ちが違う言い方をしているから、だから笑いが来ないんだよ」とか。そこまで言うと、誰でもわかりますよね。
気持ちを変えるとセリフの言い方が変わって、相手役者のリアクションも変わる。すると次のひと言でドーッとウケて、そのフリを言った役者もものすごく気持ちよくなる。
役者が納得して、笑いのメカニズムがわかるようになると、次からは稽古場で役者のほうから聞いてくるようになります。「何でウケないんでしょうか?」って。「あ、それはお前が下手だから(笑)」みたいなこともあります。
――三宅さんは今年73歳になられましたが、ご自身の40〜50代を振り返って、当時感じていたことを教えてください。
【三宅】僕が50代のときに歳下の人たちと飲んで言っていたのは、「次の40代をどう楽しく過ごせるかを考えながら、30代を過ごせば、時間を大切にするようになるよ」ということでした。
「何年までにこれができるようになりたい」と思って、それをクリアする。そして次の設計を考える。この繰り返し。まさに劇団の運営と同じ。
だからそんなふうにすれば、今が一番楽しいと思って生きていける。40〜50代の人には、そう伝えたいです。僕は70代なんですけど、実は今が一番楽しいんですよ。
僕が感じる70代の楽しさは、今まで人に任せていたことが人任せにできなくなったことです。舞台演出って、小道具の瓶の色まで全部決めなくちゃいけないんですよ。それで本番を観ると、「あの色、違っていたな......」みたいな小さな失敗がたくさん出てきます。でも僕が決めたんだから仕方がない。それを繰り返していくと、間違いの数も減ってくる。自分の失敗も楽しめるようになるんですよ。
――劇団は今年45周年。ズバリ、今後の目標は何でしょう?
【三宅】あと5年で50周年ですよね。さすがに50周年は何か新たな挑戦をしないと。創立メンバーが全員揃って、バク転でもしますか(笑)!
『ニッポン狂騒時代〜令和JAPANはビックリギョーテン有頂天〜』
東京公演: 2024年10月17日(木)~10月27日(日) サンシャイン劇場
神戸公演: 2024年11月8日(金)~11月10日(日) AiiA 2.5 Theater Kobe
脚本:吉井三奈子 演出:三宅裕司 出演: 三宅裕司、小倉久寛、劇団スーパー・エキセントリック・シアター スペシャルゲスト(神戸公演のみ):浅野ゆう子
1960年代、東京。アメリカで誕生した20世紀最大の音楽革命であるロックンロールを日本語化し、「カバーポップス」として若者の間に大きなブームを起こした訳詞家・山南寛治。その熱狂ぶりを苦々しく見つめるのは、安保反対を掲げ日本人の誇りを守るべく闘う学生運動家・新城拓真。交わるはずのない両極端な2人。だが、純朴な少女・直美と出会い運命が動き出す。すべてが熱く激しかったあの時代、狂乱の果てに彼らが選んだ道とは......!?
【三宅裕司(みやけ・ゆうじ)】
1951年生まれ、東京都出身。1979年、ミュージカル・アクション・コメディーを旗印に劇団「スーパー・エキセントリック・シアター」を結成。タレントとしても、「三宅裕司のヤングパラダイス」「三宅裕司のいかすバンド天国」など、様々なヒット番組を世に送り出した。映画『サラリーマン専科』シリーズ、『釣りバカ日誌14』などに出演し、喜劇役者としても高い評価を得る。
更新:11月21日 00:05