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放置すると食道がんのリスクも...いま急増する逆流性食道炎を知る

2025年07月31日 公開
2025年07月31日 更新

木原洋美(医療ジャーナリスト)

逆流性食道炎

いまや中高年だけでなく、20代・30代の若年層にまで広がる逆流性食道炎。なぜ急増しているのか?原因は?罹患したらどうすればよいか?医療ジャーナリストの木原洋美さんが専門医への取材をもとに、分かりやすく解説する。

※本稿は『PHPからだスマイル』2025年6月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

もはや「新国民病」!原因は糖質過多など様々

近年急増し、今や日本人の10人に1人が患うといわれるほど新たに「国民病化」しているのが逆流性食道炎です。

その名の通り、胃酸を含む胃の内容物などが、喉と胃の間をつなぐ「食道」へと逆流することで、胸焼けや呑酸症状(すっぱいものや苦いものが込み上げてくるような症状)などを引き起こす病気です。

「以前は中高年の病気だと思われていましたが、昨今は20代・30代の若年層の患者も増えています」と解説してくれたのは、消化器内科医の袴田拓医師です。

増加の原因は、「ストレスの増大」「糖質過多の食事」「刺激物の過剰摂取」「内臓脂肪型肥満の増加」「ピロリ菌感染者の減少」「摂食障害」など、いろいろといわれていますが、特徴的なのは「ピロリ菌感染者の減少」です。

昔は衛生状態の悪い井戸水を飲んでピロリ菌に感染する人が多く、その頃の日本人は「萎縮性胃炎(慢性胃炎)」により、胃酸の分泌力がかなり低下していて、逆流する胃酸そのものが少なかったため、逆流性食道炎も起こりにくかったと考えられています。

「しかし、衛生環境がよくなり、胃がんのリスクを下げるための除菌治療も普及して、ピロリ菌感染率は激減。日本人の胃酸分泌量もだいぶ回復したぶん、逆流性食道炎が起こりやすくなったのです」(袴田医師)

さらに「糖質過多の食事」に伴う「内臓脂肪型肥満の増加」も注意が必要です。過剰に摂取された糖質は、中性脂肪に置き換えられて内臓に蓄積され、胃袋を圧迫して逆流を助長します。

また、糖質過多の食事は、食後の血糖値が急上昇してその後急降下する「血糖値スパイク」によって、低血糖症を起こすことがあります。すると交感神経が優位になって胃・十二指腸の蠕動運動が低下し、消化液の逆流につながるというわけです。

 

3大要因はゆるみ・胃酸・腹圧

逆流性食道炎を引き起こすのは、食道から胃への入り口にある〝逆流防止弁〟の「ゆるみ」、食道の壁を荒らすことで胸焼けや呑酸症状などを引き起こす「胃酸」などの消化液、胃の内容物を食道へと押し上げる「腹圧」で、これらが「3大要因」と考えられています。

「とくにやっかいなのは、通常は逆流しないはずの十二指腸液が逆流する事態です。十二指腸液は胆汁と膵液が混ざった最強のアルカリ性消化液で組織障害性が非常に高く、しかもアルカリを抑える薬はまだ開発されていないのです」(袴田医師)

逆流性食道炎は放置すると慢性化し、食道粘膜の性質が変わることで、食道がんのリスクが高まります。頻繁に胃酸が逆流してくるようなら、悪化しないうちに医療機関を受診しましょう。

「診断では胃カメラ(上部消化管内視鏡)の検査を実施します。苦手という人は多いですが、食道の炎症所見はバリウム検査ではなく胃カメラでなければわかりません。経鼻式も含めて非常に重要な検査です」(袴田医師)

また気をつけたいのは、喘息のような咳の症状です。

「逆流した刺激の強い消化液を吸い込んだがために咳が出たり、肺炎になったりすることもあります。呼吸器内科や耳鼻咽喉科を受診しても、原因にたどり着けない可能性があります」(袴田医師)

謎の咳が続く場合には一度、逆流性食道炎を疑ってみてください。

 

主な治療は服薬と生活習慣の改善

生活習慣の改善

治療は、胃酸の分泌を抑える薬の服用と生活習慣の改善が主になります。薬の服用を始めれば、ほとんどの場合症状は速やかに改善し、食道のびらんや炎症などもやがて治癒しますが、根本の要因となっている生活習慣の改善も欠かせません。

それでも効果がなく、繰り返し再発する場合には、手術療法も選択肢となります。

「最近は腹腔鏡(内視鏡の一種)を使用した手術が、増えています」(袴田医師)

逆流性食道炎は、意外と一筋縄ではいかない病気です。疑わしい場合には、専門医を受診してください。

 

【取材・文】木原洋美(きはら・ひろみ)
コピーライターとしてさまざまな分野の広告に携わった後、軸足を医療へと移す。雑誌やWEBサイトに記事を執筆。著書に『「がん」が生活習慣病になる日』(ダイヤモンド社)がある。

【監修】袴田拓(はかまだ・たく)
新百合ヶ丘総合病院予防医学センター消化器内科部門部長、同消化器内科科長

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