キャリアシフトと言えば、当然「転職」も選択肢の一つ。しかし転職未経験のビジネスパーソンにとって、転職は「わかるようでわからないこと」であふれているものだ。そこで、人気転職情報サイト「転職アンテナ」設立者のmoto氏に、全ミドルが知っておくべき転職の「基本のキ」を取材した。(取材・構成:川端隆人)
※本稿は、『THE21』2024年3月号特集「40代・50代からの『キャリアシフト』成功術」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
ミドル世代に限らず、転職を考え始めた人が往々にして陥ってしまう「よくある勘違い」がいくつかあります。 最もよくあるのは「自分は転職できるだろう」という前提でいること。そうした考えでいざ転職活動を開始したら、書類選考すら通過できない......というのはよくある話です。
1次面接で落とされることだって、日常茶飯事と言っていいと思います。中には、転職エージェントから「そもそも、今のスキルでは転職は無理ですよ」なんてことを言われる可能性もあるのです。
転職を考える際は、自分のことを当然のように「売れる人材」と考えず、自分に対するニーズがあるかを考えることが大切。転職活動は「自分の市場価値を見極める場」と考えましょう。
そして、もう一つよくあるのが「もし内定が出たらどうしよう」と、転職活動前から悩むことです。〇〇社に内定したらどうしよう、今の会社はいつ頃辞めよう、通勤経路は......と応募する前から心配し、結局転職活動をしない人をよく目にします。
しかし、それらの悩みは内定をもらってから考えればいいこと。オファーさえもらえばいくらでも交渉できるので、行く前から気にしても仕方がありません。
他にも「内定が出たら入社しなければいけない」「転職エージェントに登録したら、転職しないといけない」といった思い込みを抱えている人も多いようですが、いずれもそんなことはありません。転職エージェントに登録して転職しないのも、一度出た内定を辞退するのも、最後に決めるのはあなたの意思です。
いざ転職を考え始めると不安が尽きないのはよくわかります。しかし、行動しないことには何も起こりません。心配事のほとんどは、内定が出てからでも間に合います。
まずは転職エージェントなどの各種サービスに登録し、情報を集め、書類を出し、面接を受けてみてください。 なお、転職活動は人それぞれとはいえ、多くの人が次のような流れをたどります。
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①最初の1、2社を受けるのはガチガチに緊張する
②3、4社ほど受けたあたりで慣れ始め、同時に「転職活動ってこんな感じ」という感覚がつかめてくる
③それと前後して最終面接に進めたり、内定が取れたりといった成果が出始める ――――――――――――――
これを見てわかる通り、まずは3、4社前後、条件にこだわりすぎずにサッと受けてしまうのが得策でしょう。本格的な転職活動はその後に始まる、くらいに考えたほうが、後悔なく転職ができるように思います。
昨今はほとんどがオンラインでの面接となっているため、気軽に受けられるのも特徴です。まずは面接に慣れるところから始めてみましょう。
いざ転職活動を始めるとなると、気になるのは「どんなサービスに登録すべきか」ということでしょう。
結論から言うと、初めて転職する方には転職エージェントがおすすめです。担当のキャリアアドバイザーと相対して、自分の強みは何か、どんな会社が合いそうか、といったことを相談できるのが一番の理由。エージェントが求職者を企業に売り込んでくれる例もあり、面接にたどり着きやすい点も魅力です。
一方、もう一つよく聞く「転職サイト」は、エージェントとは別物。これらには求人情報だけが掲載されています。自分のペースで応募できるという便利さはありますが、プロのサポートなしに応募書類だけで自分を売り込む必要があり、ある程度転職経験がある人向けのサービスでしょう。
また、プロフィールや職務経歴を登録しておくと企業から声がかかる「スカウト型」の転職サービスもありますが、これもよほど目を引く経歴や経験がある人でないと、なかなか良い求人には出会えないように思います。
なお、転職エージェントに登録する際は、ぜひ「複数社」に同時に登録してください。転職の成果は、担当になるアドバイザーとの相性によって大きく変わります。基本的には「リクルートエージェント」「パソナキャリア」「doda」といった大手に登録しておくのがおすすめです。
ミドル世代は何かと出費がかさむ年代でもありますし、やはり転職で特に妥協したくないポイントは「年収」だと思います。 給与や待遇の細かな調整は、内定後にすり合わせる場合が多いのですが......そう聞くと、多くの方が「給与交渉なんてしたことがない」と不安になるのではないでしょうか。
ですが実は、ここについても「転職エージェントに任せる」のが最適解。こちらの希望をしっかり伝え、自分の代わりに、会社と存分に交渉してもらいましょう。
面接直後に直接給与額を提示された、といった場合も「エージェントと相談しますので、持ち帰ります」と答えてなんら問題ありません。入社日の交渉などについても同様です。
他にも、職務経歴書の添削や面接対策、自分と同年代の転職者の成功&失敗事例を教えてもらうなど、とにかくエージェントは使い倒すのが得策です。
転職がうまくいく人と、うまくいかない人。両者を分けるものは色々ありますが、特に重要かつ基本となる3つの要素を挙げておきます。
まず、自分の実績を適切にアピールできること。転職において問われるのは、志望する会社にどんな貢献ができるか、ということです。極端な例を出すと、「前の会社で部長だったので、部長職ならできます」なんてアピールでは、「それがどうした」という反応になってしまうというお話です。
また、経験豊富な人ほどやりがちなのが、自分の実績を端からすべて話してしまうこと。こんな成果を上げた、こんなプロジェクトにも携わった......と列挙しても、相手に「確かにすごいけど、結局うちで使える経験はどれなの?」と思われてしまったら意味がありません。
志望先の会社が求めていること、抱えている課題を見極めて「自分にはこんな実績があるので、このようにお役に立てますよ」と、的を絞った話をする。これが転職者として適切な実績のアピールです。
そして2つ目に、コミュニケーション能力。これも非常に重要です。転職の面接におけるコミュニケーションは、「聞かれた質問に、簡潔に答える」ということ。当たり前のようですが、面接の場では緊張のあまり、不要な補足や自分語りをつけ足してしまう人が意外に多いものなのです。
最後に挙げるのは「素直さ」です。ミドル世代まで1つの会社に勤め続けたとなれば、その過程で確立したご自身の仕事のスタイル・流儀といったものもあるでしょう。しかし、新しい会社に入ったら、これまでと違う文化や企業風土を受け入れなくてはいけません。それが可能な柔軟性があるかどうかも、面接担当者は見ています。
アドバイスとしては、自分の過去の話は極力控え、志望先の会社の話を積極的に聞いていくこと。この姿勢があれば、素直さや柔軟さも、自然とアピールできると思います。
最後に、転職活動のサイクルについてもお伝えしておきましょう。応募から採用までのフローは各社様々ですが、一般的には「三次面接まで」というところが多い印象です。1件の応募から内定までは、通常1カ月ほどかかるとイメージしておけばいいでしょう。
すでに述べたように、転職活動のはじめには、まずある程度多くの会社に応募して「数をこなす」ことが大事です。その中では、きっと書類選考で落とされたり、面接で思うように話せなかったりという経験を何度もするでしょう。
しかし、転職活動でボロボロになって初めて、自分の市場価値がわかるのです。そして、今のままでは社外で通用しないことを知ってようやく「では、どうすればいいか」と考えることができるようになります。
あなたの本当の転職活動は、そこから始まります。そう考えておくと、いくぶん気が楽になるのではないかと思います。
更新:11月21日 00:05