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在職中の準備が鍵!「定年後の起業がうまくいく人」の条件

2024年01月05日 公開

片桐実央(銀座セカンドライフ(株)代表取締役)

定年後起業を成功させるには

「定年退職したら、自分のペースで働きたい」──そんなことを考えている人にお勧めなのが、個人でできる小ビジネスだ。

成功の秘訣は、在職中から適切な準備をしておくことだと、シニアの起業支援を手がける片桐実央氏は語る。在職中にやっておくべき情報収集や学びについてうかがった。(取材・構成:林加愛)

※本稿は、『THE21』2024年 2月号総力特集『50代からも稼ぐ力が衰えない「学び方」』より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

 「3つの円」でわかる起業のアイデア

3つの円

定年退職後に起業をしたい、と考える方が近年増えています。シニアの起業支援を行なう私のところにも、多くの相談者が来られます。

年金だけでは心もとない、と不安を抱いている方、「人生100年時代」において後半生の充実を図りたい方など動機は様々ですが、全体的な傾向として見られるのは、相談時期の早期化です。相談者のほとんどは、50代の方々。つまり、在職中から準備を始める方が多いのです。

確かに、準備の着手が早いほど、起業の成功率は高まります。同時に、準備の内容が適切か、きちんと順を追っているかも重要ポイント。起業に関心のある読者の皆さんにもぜひ、そのプロセスを知っていただければと思います。

最初に行なうべきは、「何を事業化すればよいか」を明確化すること。その際にお勧めなのが、「3つの円」を描いて整理することです。

「①自分のできること、②やりたいこと、③お金になること」という円を描き、それぞれリストアップしましょう。3つが重なり合うところが、最もスムーズに結果を出しやすい分野、ということになります。

とはいえ、たいていの場合、3つの円はそう簡単には重なりません。相談者の方々も、重なるまでに1年くらいかかることが珍しくありません。ですから、焦らず熟考していくことが大切です。

一番書きやすいのは「できること」でしょう。経験してきたこと、得意なこと、褒められたこと、高い実績を上げたこと、持っている資格、などなど。

「やりたいこと」に関しては、「何かはやりたいが、それが何かがわからない」人が意外に多いものです。「できること」の延長線上で考えても今一つ気持ちが乗らない、ということもままあります。

そんなときは、消去法で考えましょう。つまり、やりたくないことを書けばいいのです。例えば「デスクワークはしたくない」「人と会わない仕事はイヤ」「営業は苦手」など。外側から埋めていくと、逆にやりたいことがクリアに見えてきます。

2つの円が重なり合った段階で、「お金になること」かどうかを確認します。そこで、まずは検索をします。行ないたいサービスと、「市場規模」「市場性」などのワードを入れるだけでも、かなり雰囲気がつかめます。

また、中小企業基盤整備機構が運営するサイト『J-Net21』上の「起業・創業」のページでは、世にある多様な小ビジネスの市場規模や、開業のノウハウが見られます。

 

個人でできる小ビジネスの見つけ方

小ビジネスの見つけ方

一方、大企業で働いている方々によくある盲点が、「そもそもサービスの存在を知らない」ということ。例えばIT業界の大手にいる方が、同分野での起業を考えた際、「個人ではシステム開発の仕事なんて無理」と決めてかかる、といったことがままあります。

しかし実は、個人レベルでできるビジネスはたくさんあります。中小企業のITツール導入を支援したり、開発会社と企業をマッチングしたり、ITツールの比較サイトを運営したり。こうした小ビジネスや周辺ビジネスを知らずに諦めてしまうのはもったいない話です。

有効な対策は、業界の勉強会や交流会に参加すること。業界団体に入会しておくと、その機会が多く得られます。

同分野にいる人や、一足先に起業している同世代の人と話すことで、「こんなビジネスもあるのか」と学べて、自分が起業する際のイメージもわきやすくなります。異業種の交流会でも、自分の分野に置き換えれば、大いにヒントを得られるでしょう。

「こちらは何の準備もしていないのに、情報だけ取りにいくのは失礼では?」などと、ためらう必要はありません。参加者の多くは営業を目的としていますから、話を聞くだけでも喜ばれます。

ちなみに、交流会で会社の名刺を出すのはNGです。会社に連絡がいって、「辞めるつもりか!?」となるからです。ですから、名前と携帯番号、フリーのメールアドレスだけを記載したシンプルな名刺をつくっておくと良いでしょう。肩書は「起業準備中」としておけばOKです。

 

「ニッチ狙い」は 意外に失敗する!?

「存在している小ビジネスを知ろう」と言いましたが、逆に言うと、「存在しないビジネス」で起業するのは避けたほうが吉です。ビジネスの世界では「まだ世にないサービスを行なうべし」とよく言われますね。

しかし実際のところ、誰も知らないサービスをすぐに収益化するのは至難の業です。 収益化どころか、理解されるまでにも時間がかかります。どのようなサービスなのか、どの点で意義があるのか、を説明するだけで営業が終わり、それでも契約にたどり着けない、といったことになりかねません。

ですから、起業するなら「すでに世にあるサービス」にすること。その上で、独自性や差別化ポイントを打ち出していくのがコツです。

それには、すでにその事業を行なっている会社の情報が不可欠です。やりたいサービス名と価格で、検索をしましょう。例えば「飲食業 コンサルティング 料金」と入れてみると、様々な会社のサイトが出てきて、料金のみならずサービス内容もわかります。

少なくとも上位5社の情報を見て、比較表をつくりましょう。そこから、自分の強みや、自分にしかできないサービスのあり方が見えてきます。

内容が固まってきたら、事業計画書をつくりましょう。本格的なもの、例えば金融機関の融資の審査資料にするような文書ならば10数ページは必要ですが、自己資金のみで始めるなら、1~2ページで十分です。

サービス内容、想定顧客、販売方法、市場と競合、起業スケジュールなどを文書化し、今後ブラッシュアップしていくべきポイントを把握しましょう。

ちなみに資金は、「初期投資分と運転資金3カ月分」が一般的な目安です。しかし定年後のビジネスは、ごく少額で始める方が多数派です。

店舗経営やものづくりならば設備にお金がかかりますが、例えばコンサルタントなら、用意するものはパソコンと名刺だけ。相談者の方々も、多くは50万円以下で起業されていて、その点ではハードルが低いと言えます。

 

「テストマーケテイング」は 学びの絶好の機会

実践経験の重要性

起業に際して、足りないスキルの「学び直し」を検討する方もいるでしょう。その方法としては、資格取得や大学院に通うなど、理論面を強化するイメージが先行しがちですが、よりお勧めなのは「実戦」の経験を積むことです。

例えば「プロボノ活動」。スキルを無償で提供する社会貢献活動、という意味ですが、在職中から助走的に起業体験をするにも最適な方法です。士業やコンサルティング業で開業したい方が、事前に実績をつくる機会にもなります。 士業に限らず、どの職種においても同じことができます。

サービスを無料もしくは割引で行なう「テストマーケティング」を通して、感想をヒアリングしたり、ニーズを探ったり、積極的に働きかけましょう。

SNS、とりわけFacebookを活用するのも有効な方法です。開業準備だとは明言せずとも、その分野に対する熱意や愛着、関連情報などを発信していく中で、同じ興味関心を持つ「友達」ができます。

その人々は、消費動向やニーズを知る情報源であると同時に、開業後にアプローチするターゲットにもなります。 つまり、テストマーケティングやSNSは学ぶ機会であり、かつ、集客の準備の場です。

時折見られるのが、「今の会社の関係者が顧客になってくれる」という甘い見通しのせいで集客を怠ってしまうケース。そうすると起業後、「前職の看板」のない状態で営業をかけ、定年前とはまるで反応が違って落ち込むことになります。これは、起業する方が味わう「ガッカリ」の中で、最も大きなものです。

しかしそれでも、決して手遅れではありません。ダメージからいかに素早く立ち直り、再び営業戦略を立てられるか否かが大事な分かれ目です。

遅ればせながらテストマーケティングを行なうのは大いに有効ですし、派遣サイトに登録するのも良い方法です。コンサル系の仕事なら、「顧問派遣・紹介サービス」に登録してみるのも一つの手でしょう。

そのほか、セミナーを開いたり、コラムを書いたり、販路開拓の手立ては様々。相性の良さそうな方法から優先的に行なっていきましょう。話すのが得意ならセミナー、文章を書くのが好きならコラム。もちろん両方行なえば、それだけチャンスは増えます。

どちらも苦手な方は、ここでも「交流会」を活用するのが一番。会場で出会う人はもちろん、その人が紹介してくれたご縁で顧客獲得につながることも多々あります。

 

「起業家仲間」をつくるメリットとは?

起業家仲間をつくるメリット

交流会は、同業の仲間をつくる絶好の機会でもあります。「ライバルと仲良くするなんて」と抵抗を感じるとしたら、それはチャンスを逸するモト。

同業・同世代の起業家とつながることで得られる恩恵は数多くあります。それも、「励まし合える」「情報交換できる」だけにとどまらない、実際的なメリットがあるのです。

それは、顧客を紹介し合えること。個人事業主は基本的に「身一つ」なので、依頼が重なったときは、仕事を受けられません。急病で入院、などの場面で仕事に穴を開ける危険とも隣り合わせです。

そんなとき、仕事を回せる仲間がいれば安心。紹介の際に手数料をもらうルールをつくっておけば、さらにベターです。 紹介する・される関係を複数の同業者と持っておけば、お客が多すぎるときも少なすぎるときも助け合えます。さらには、高齢になってそろそろ引退を、と考えたときも、仲間に顧客を引き継げます。

なお「身一つ」と言いましたが、従業員を雇うという選択も、もちろん可能です。しかし定年後の方々は、あまりそれを好まない傾向があります。人件費がかかるということもありますが、それよりも「今さら『上司』をやりたくない」という気持ちが大きいようです。

自ら現場に立ち、一プレイヤーに戻って働くのが楽しいのに、また中間管理職のようなことをしたくない、というわけです。となると、頼りになるのはやはり仲間。「縦」よりも「横」の関係が強くなるのも、定年後起業の特徴と言えそうです。

 

開業後も、サービスを柔軟に変えるべし

最後に、起業後の大事な心得を一つ。テストマーケティング期間や、本格開始の後も、お客さんのニーズに合わせて柔軟にサービス内容を変える姿勢を持ちましょう。

いったん事業計画書を立てたら、その通りに進めなくてはならないと思いこんでいたり、前職で携わっていたことの範囲からはずれることに抵抗を感じたりして、「型」を変えない方がときどきいますが、これは先細りのリスクを高めます。

顧客のニーズを読む機会は、数多くあります。「こんなサービスもあればいいのに」と明確に指摘してくれることもあれば、「うちはこれで困っていて......」と、さりげなくサインを送ってくることも。そんなとき「うちはやってません」で終わらせると、チャンスを逸してしまいます。

すべてのニーズに合わせるのは無理だとしても、複数の顧客から頻繁に発される要望があれば、そのつど検討していくことが大切です。

例えば、石鹸の販売事業を始めたある方は、起業後もこまめにアンケートを取り、包装紙を変えたり、石鹸の成分を変えたりと、変更を絶えず加えながら売上を伸ばし、今ではバッグなど、商材の幅も広げています。

思い切って事業内容を完全に変えた例もあります。起業時は高齢者の移動支援を行なっていた方が、今の環境では価値あるサービスができないと判断し、子どもを対象としたプログラミング教室の運営へと切り替え、成功を収められています。

こうした大胆な変更ができるのは、小ビジネスならではの強みです。会社組織ならば、小さな変更一つでも、部署の合意を得る手間や時間がかかります。しかし個人事業なら、決定権は自分のみにあるので、即時に、自由に変えられます。

ただし、その変更が性急すぎるのは良くありません。すぐに軌道に乗らないからといって、深く考えずに次々に別のビジネスに手を出すような人は、これまた信頼を失います。

大事なのはやはり、潜在ニーズも含めた「顧客の声」に耳を澄ませ、応えていくことです。それらの声は改善のヒントであり、今後とるべき方向性の指針でもあります。

ビジネスを実走させつつ、随時要望を取り入れ、ブラッシュアップする。それは絶えざるインプットであり、起業後も続く「学び」と言えるでしょう。

 

【片桐実央(かたぎり・みお)】
銀座セカンドライフ(株)代表取締役。大和証券SMBCにてIPO支援に携わる。祖母の介護をきっかけにシニアの充実した生活の支援を目指し、08年に「銀座セカンドライフ(株)」を設立、銀座総合行政書士事務所を開業。定年後の起業相談、セミナーや書籍執筆でも活躍。『55歳から小ビジネスで稼ぐ! 教科書』(辰巳出版)ほか著書多数。
アントレサロン https://entre-salon.com/

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2024年12月

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発売日:2024年11月06日
価格(税込):780円

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