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“一生懸命努力する仕事”ほど人工知能に奪われる...現代のアウトプット術とは?

2023年11月05日 公開

内田和成(早稲田大学名誉教授)、楠木建(一橋大学大学院特任教授)、入山章栄(早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授)

アウトプット思考平日夜の開催にもかかわらず、100人を超える人が参加した。会場は渋谷スクランブルスクエア15階にある「SHIBUYA QWS」。渋谷駅直結でアクセスの良さは抜群。渋谷の街を一望できるのも魅力だ。

2023年10月4日、『アウトプット思考』のヒットを記念した鼎談イベントが渋谷で開催された。登壇したのは、著者の内田和成氏と知の最先端を走る楠木建氏、入山章栄氏の3人だ。100人を超える聴衆を前に、知的生産に関する三者三様の考えが縦横無尽に語られた。その一部をリポートする。(取材・構成=坂田博史、写真撮影:まるやゆういち)

※本稿は、『THE21』2023年12月号より、内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

最小限のインプットで、最大のアウトプットを出す

内田和成
内田和成氏

――『アウトプット思考』では、まずアウトプットを考え、それから必要最小限の情報をインプットすることが重要だと述べられています。

【入山】とても共感できます。ビジネスパーソンの多くがインプットから入りますが、それでは情報過多になりやすい。最小のインプットで最大のアウトプットを出すためには、そのアウトプットで自分が何を得たいのかをまず明確にすることです。

【楠木】私もアウトプットから入るのが理想だと思います。ただ、いきなりアウトプットをイメージできることばかりではありません。内田さんが言うところの「20の引き出し」を脳内につくっておいて、それらについていつも考える。そうすると考えが熟成されて、あるときアウトプットのプロトタイプ(原型)が見えてきます。

そうしたら必要なことを具体的に調べてインプットしていく。考えを長期熟成させることが、私にとってアウトプットの肝です。

【内田】私は熟成を待たず、考えがナマの状態でも顧客や市場にアウトプットすることがあります。私が面白いと思えばアウトプットする(笑)。当然、それを面白いと思わない顧客もいますが、少数であっても私のアウトプットを評価してくれる顧客がいればいい。そういうスタンスです。

【入山】私はみんなから評価されたい、マーケットで当てたいという思いが無意識にあります。だからマーケットが何を求めているのか、考え抜きます。ただ、万人受けを狙うため、尖ったアウトプットにはなりにくい。興味関心がない人はこなくていいという態度はとれない性分なので、お二人に憧れます。

【内田】ビジネスパーソンの参考になるのは入山さんです。「上司や顧客のリクエストにどう応えていくか」という視点でアウトプットするほうが相手の満足度は高くなりますから。

【楠木】だから、入山さんのマーケットは大きくて、私のマーケットは小さい(笑)。

【内田】どうしたら売れるかよりも、自分のやりたいことをやる自分視点の人も、顧客やマーケットから発想する顧客視点の人も、両方のタイプが企業には必要です。企業の置かれている環境や自分が期待されている役割に応じて、アウトプットのスタイルを変幻自在に変えることができる人が、最強なのかもしれません。

 

ChatGPTの使いどころは?

【内田】私は新しいもの好きで、ChatGPTにもすぐに飛びつき、月20ドル払って使ってきました。英文の手紙を書く際などは、希望した文体で書いてくれるので非常に重宝しています。しかし、世の中にすでにあるものを集めてくるので、クリエイティブなニーズにはまったく役立たないと考えています。

【楠木】私はあまり使っていませんし、今後も積極的に使うつもりはありません。ただ、つまらない仕事、ルーティンの仕事、自分の価値が問われない仕事などに使うと便利なので、それによって生まれた時間を考えることに使えばいいと思っています。

【入山】同感です。多くの人たちが繰り返し行なっている作業をやるのがChatGPTは得意なので、定型文を作るのは抜群に上手い。

しかし、一部の人たちに深く刺さるような文章は書けません。ある人によれば、ChatGPTに奪われる仕事は人間が一生懸命努力してやっている仕事だそうです。ChatGPTは朝昼晩関係なく無尽蔵に努力できるので、人間に勝ち目はありません。

【内田】ChatGPTをインプットのツールとして使うと、情報が多く集まり過ぎてとても消化しきれません。一番の使いどころは、クリエイティビティを必要としないアウトプット。そうした仕事をやらせて効率化し、生まれた時間をクリエイティブな仕事に使う。これが、3人の共通認識のようです。

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