ILLUSTRATION:齋藤稔(ジーラム)
――言われてみれば、確かに麻生さんにはそういうイメージがありますね(笑)。他に「この人は話がうまい」と思う著名人はいますか?
【茂木】最近はYouTubeで昔の政治家のスピーチを簡単に見ることができますが、田中角栄さんはやはりすごいですね。自分の人生や感情とつながった話をするので、聞き手も「この先生は本音だ」「本気で動いてくれる」とすぐわかります。
角栄さんは「大学を出ていない」ことを、逆に売りにしていました。スピーチの中に自分の弱点や、黒歴史(恥ずかしい経験)を交えることもポイントなんです。この点では、安倍晋三元総理もかなりうまかったと思います。
――「きれいごと」ばかり言うのではない、ということでしょうか。
【茂木】そうです。いわゆる「自虐ネタ」ですね。例えば安倍さんの場合、渋谷のとある高層ビルを訪れた際、景色のすばらしさに言及したあとこう言ったんです。 「上から見ても、麻生太郎さんのお屋敷はとても大きくてよく見えますね。私の家は小さいので、まるで見えませんでしたけど」と。
マジメな場でこういう「笑いどころ」を作ると、聴衆との距離がグッと縮まります。角栄さんのほうは、自分に学歴がないことをよくネタにしていました。先ほど私がお話した「クビになりかけた若手時代」の話も、要は自虐の一つです(笑)。
たいていの人は「自分はこんなにすごい」なんて自慢話は聞きたがりません。逆に自虐ネタや失敗談、苦労話などの「黒歴史」は、親近感や真実味を持たせ、話を面白く聞こえさせるための大きな武器になります。
読者の皆さんも、ぜひこれまでの人生経験のうちの「ちょっとした失敗談」や「隠したい苦労話」を棚卸ししてみてください。それをうまく話に盛り込めれば、聞き手は「そんな一面は知らなかった」とあなたに親近感を抱いてくれるはずです。 「誰もが納得する話」は つまらなくなりやすい
――逆に「この人の話はどうにもつまらない」と感じる人の特徴はどのようなものですか?
【茂木】それこそ、今の岸田首相ですかね(笑)。常に用意された原稿通り、淡々と簡潔に話しているように聞こえて気持ちが伝わらない。真面目すぎるのか、いつも1から10まですべて話そうとしているようにも見受けます。
話す練習自体は何度もしていると思うんですよ。声も通るし、滑舌だって安倍さんよりずっと良い。でも、ご自身の人生につながっていないから、聞き手の頭にぜんぜん話が入っていかないんです。
――まさに茂木先生のお考えや価値観が前面に出たお話。とても魅力的に感じます。一方で、持論を包み隠さず述べていると、敵を生むリスクもあるのではないでしょうか?
【茂木】もちろんあります。予備校の生徒アンケートで「茂木の話は偏っている」と書かれたことも(笑)。
でも、それは仕方ないですよ。聞く人みんなが「まぁ、そうかも」と納得する平坦な話より、「俺はこれを言いたい」というメリハリのきいた話のほうが、聞く人を引きこむ力が強い。アンチを生みかねない話じゃないと、なかなか味方も生まれないかなと思っています。
――その他に、読者が部下や大勢の前で話すときに意識するとよいテクニックはありますか?
【茂木】あとは、なるべくゆっくり低めの声で話すことですね。早口の甲高い声で話す人は、なぜかあまり信用されない気がします。 それと、あえて間を入れるのも効果的です。
聴衆に対して「どう思いますか?」と問いかけて、5~10秒ほど黙る。すると、ちゃんと聞いている人は実際に考えてくれるし、聞いていなかった人も「あれ? 話終わった?」と、慌ててまた話し手に注目してくれます(笑)。
――確かに、急に黙られるとビックリしますね。ミドルでも取り入れられる、話し方のトレーニングはありませんか?
【茂木】お勧めは、自分の話を録音して聞いてみること。自分の話にどんなムダがあるか、間延びしていないかなど、改善すべきポイントがいくつも見つかると思います。 多少たどたどしくても、自分の経験や主観のこもった「人生とつながった話」ができれば、相手もあなたの話をもっと聞きたい、と思ってくれるのではないでしょうか。
更新:11月23日 00:05