下調べを重ね、よく整理してわかりやすく話したはずなのに、なぜか聞き手のウケが悪い......そんな経験のある人も多いだろう。予備校の人気講師として多くの生徒に歴史の面白さを伝えてきた茂木誠氏は、魅力的な話をするポイントは「話者の人生とのつながり」にあると言う。(取材・構成:前田はるみ)
※本稿は、『THE21』2023年11月号特集「話が深い人vs. 話が浅い人」より内容を抜粋、再編集したものです
――予備校での講義はもちろん、最近ではYouTubeでも人気を博す茂木先生。聞く人を飽きさせないために、「話し方」について工夫されていることはありますか。
【茂木】まず重要なのは、「第三者目線の話はなかなか相手に伝わらない」ということです。そのため、なるべく自分の経験や感覚、それに「私はこう思う」という主観・持論を交えて話すようにしています。つまりは「自分の言葉で話す」ということです。
――先生のご専門は歴史。教科書にならう場合、「自分の言葉で」話を進めていくのは、なかなか難しいことではないでしょうか?
【茂木】まさにそれが落とし穴で、「教科書をなぞるだけの話」をしていると、学生は寝ます。自分が感動した話、興味を持った話、腑に落ちた話をメインに伝えています。
――予備校の歴史の講義と聞くと「とにかく頭から伝えて、覚えさせる」イメージがあるのですが、そうではない、ということですか。
【茂木】それだと学生に伝わらないし、ほとんど記憶にも残りません。「この話は面白いから、絶対に伝えたい」と思うことを絞り込み、それだけを心を込めて教えるほうがいいんです。
仮に教えることが1~10まであるとしても、話す内容は3くらいまででOK。「この人の話は面白いな、聞く価値があるな」と相手が思ってくれるならそれで成功。細かい情報は自分で調べられます。まずは聞き手との信頼関係を築かなければ、コミュニケーションは成立しません。
――確かに!相手の話に聞く価値があるかどうか、面白い話かどうかなど、聞き手はどこで感じるのでしょうか。
【茂木】その人の実際の経験やその時々の感情が含まれているか、つまりは「その人の人生」とつながっているかどうか、ですね。
といっても意識してやっているわけではなく、要は「相手が本心から話しているか」を瞬時に見抜く本能が、人間に備わっているのです。政治家のスピーチを聞いて、その人が本音で喋っているか、原稿読んでるだけか、誰でもわかりますよね。
――「教科書にこだわらない」というのは、予備校講師になった頃からのポリシーなんでしょうか?
【茂木】いえ、全然。講師になりたての頃はひどかったですよ(笑)。ただ教科書をなぞるだけの講義で、感情も何も乗っていない。そんな話が生徒に響くはずもありません。年2回実施される学生からのアンケートも、毎年低いものでした。
私が勤める予備校では、そのアンケートが集計され、翌年の担当講義の数や給与、雇用継続の判断に大きく影響します。「このままでは本当にクビになる」と危機感を覚えた私は、「もう教科書をなぞるのはやめよう」「自分の言葉で語ろう」と決めたのです。それ以後、生徒からの評価が急上昇したんです。
――それだけで、そこまで激変するものなんですね。
【茂木】さらに言うと、予備校講師という特殊な環境で磨いた話術がもう一つあります。それが「寸劇を入れる」というテクニックです。
――非常に興味があります!いったいどんなワザなんでしょう。
【茂木】冒頭で「第三者目線の話はなかなか伝わらない」と申し上げましたが、歴史ってそもそもすべてが伝聞ですから。いくら自分の考えや経験と結びつけるにしても限度はあります。そこで、大事な部分では「歴史上の人物の視点」に立って一人称で話していくんです。
「ビスマルクはこう考えた」ではなく、「わたくし、ビスマルクはこう考えるのであります」と寸劇に仕立てます。落語のようなイメージですね。そうすることで、あたかも現場にいるような臨場感が生まれ、また登場人物の感情に触れることもできるので、聞き手も面白く聞けるのです。
このテクニックの名人が、麻生太郎元総理です。誰かに反論するとき、相手の発言をマネたうえで、独特のべらんめえ口調で「......って言うんだよ。んなこと言われたって、俺は○○って考えてんだ」と。そういう話し方ができると、一気に聞き手を引き込めるんです。
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「かつての苦労や失敗」を 話の中に盛り込むべし >
更新:11月23日 00:05