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通知が報酬中枢を刺激する...スマホが手放せなくなる“脳の仕組み”

2023年07月05日 公開
2023年12月08日 更新

アンデシュ・ハンセン(精神科医)

スマホ依存がやめられない理由

脳の疲労回復のためにも、心の健康のためにも、時々はデジタルデトックスやスマホ断ちが必要――そうわかっていても、「スマホを手放すことは難しい...」と感じている人も多いのではないだろうか。

世界的ベストセラー『スマホ脳』の著者で精神科医のアンデシュ・ハンセン氏によると、それは数十万年かけて進化してきた脳のメカニズムのせいだという。

※本稿は、『THE21』2023年8月号特集「40代からの『脳・心・体』疲労回復術」より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

スマホを手放せないのは脳のメカニズムのせい

悪影響に気づきながらも、私たちがこんなにもスマホに夢中になってしまうのは、数十万年かけて進化してきた脳のメカニズムのせいだ。脳には、大好きなものが2つある。「新しいもの」と「かもしれない」だ。

厳しい自然環境を生き抜くために、人間が知識を渇望するのは不思議なことではない。天候が変わるとライオンは行動をどう変えるのか、カモシカが一番注意散漫になるのはどんなときなのか――そうした周囲の環境を理解するほど、猛獣からの襲撃を避けたり、狩りを成功させたりする確率が高まり、生き延びる確率も高まる。

その結果、人間は新しい情報を探そうとする本能を得た。この本能の裏にある脳内物質が、ドーパミンだ。新しいことを学ぶと、脳は報酬としてドーパミンを放出する。それによって、人間は新しい情報や学びを欲するのだ。

私たちの祖先が生きていたのは、食料や資源が常に不足している世界だった。そんな環境では、新しい場所や環境を探したいという衝動を持っているほうが、そうでない場合よりも食べ物を手に入れる可能性は高かったはずだ。

現代を生きる私たちの脳も、基本的には当時と変わっておらず、新しいものへの欲求は健在だ。しかし現代では、新しい場所に食べ物を探しにいくことよりも、パソコンやスマホが運んでくる新しい知識や情報に欲求が向けられている。

新しい情報を得ると、脳の報酬システムが、祖先が新しい場所や環境を見つけたときと同じように作動するのだ。

 

私たちの脳は「かもしれない」が大好き

そして、実は脳が新しい情報以上に大好きなのが、「かもしれない」だ。

報酬システムが激しく作動するのは、お金、食べ物、セックス、承認、新しい経験といった結果を手に入れたときではなく、それを期待したときだ。「何かが起こるかもしれない」という期待以上に、報酬中枢を駆り立てるものはない。

ネズミを使った1930年代の研究によると、レバーを押すと餌が出てくるようにした実験では、必ず餌が出てくるときよりも、時々しか餌が出てこないようにしたときのほうが、レバーを押す回数が多かった。

その20年後にサルを使って行なわれた実験は、ある音が聞こえるとジュースが少し出てくるというものだった。サルのドーパミン量は、音が聞こえた時点で増加し、むしろジュースを飲んでいるときよりもずっと多かった。また、音が聞こえても時々しかジュースが出てこないほうが、ドーパミン量がさらに増えることもわかった。

ネズミとサルに共通して見られたこの現象は、人間にもあてはまる。お金がもらえるカードを被験者に引かせる実験では、毎回お金がもらえるとわかっていると、確実にもらえるかわからない場合ほどには、ドーパミンは増えないのだ。

ドーパミンの最も重要な役目は、私たちが何に集中するかを選択させることだ。それなのに一体なぜ、脳は確かなものより不確かなものを望むのだろうか。

その答えはまだ100%解明されてはいないが、最も信憑性の高い説明では、「ドーパミンの最重要課題は、人間に行動する動機を与えることだから」とされている。

自然の摂理は予言できないものが多い。例えば、果物の木を見つけても、登ってみなければ実がなっているかどうかはわからない。登ってみて何も得られなくても、諦めずに別の木に登って探してみることが大事だ。

そのうちに高カロリーの果物というごほうびが手に入り、生き延びる確率も高まる。だから、報酬を得られるかどうかわからなくても私たちは行動し続ける。この本能によって祖先は食料や資源を発見し、活用して生き延びてきたのだ。

そしてこの「かもしれない」への偏愛が、現代では問題を引き起こしている。

チャットやメールの着信音が聞こえるとスマホを手に取りたくなるのは、「何か大事な連絡かもしれない」と期待するからだ。たいていの場合、着信音が聞こえたときのほうが、実際にメールやチャットを読んでいるときよりも、ドーパミンの量は増える。

「大事なことかもしれない」という期待に私たちは強い欲求を感じ、ついスマホをチェックしてしまうのだ。起きている間中ずっと、10分おきに。

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著者紹介

アンデシュ・ハンセン(Anders Hansen)

精神科医

1974年生まれ。スウェーデン・ストックホルム出身。スウェーデンで国民的人気を得た精神科医。ストックホルム商科大学でMBA(経営学修士)を取得し、名門カロリンスカ医科大学で医学を学ぶ。『スマホ脳』『最強脳』『ストレス脳』(以上、新潮新書)、『一流の頭脳』『運動脳』(以上、サンマーク出版)が世界的ベストセラーとなる。

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