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カリスマ性より等身大? 米国巨大IT企業の迷走にみる「これからのリーダー像」

2023年04月12日 公開

名和高司(一橋大学ビジネススクール客員教授)

 

見直されつつある日本人リーダーたち

「賢慮のリーダー」では、それを体現する人物として、本田宗一郎さんや、もう少し時代が下って柳井正さんといった日本の名経営者たちが挙げられている。

日本人の書いた論文だから当然と思われるかもしれないが、そうではない。本論文が受け入れられているということは、日本型経営が再び見直されていることの何よりの証左だ。

この論文が出た2011年はまさに、資本主義の曲がり角ともいうべき時期であった。2008年のリーマンショックを経て、単に利益を追求し、株主の要求に応えるだけの資本主義の限界が叫ばれるようになった。

資本主義の権化ともいえるあのマイケル・ポーターが、「CSV」(Creating Shared Value :共有価値の創造)を主張したのは、ちょうどこの論文が載った数カ月前の同じ「ハーバード・ビジネス・レビュー」であった。

そう考えたときに、志本主義時代のリーダー像とは、こうした日本人リーダーの姿にこそ範を求めるべきではないか。以下、その視点から「名経営者のリーダーシップ」を振り返っていきたい。

 

松下幸之助は時代を先取りしていた

まず取り上げたいのが、パナソニック創業者・松下幸之助さんである。一代で世界的大企業を築き上げ、「経営の神様」とまで言われた人物だ。その著書『道をひらく』は現在でも売れ続けており、500万部超のベストセラーとなっている。

実は私は松下さんには特別な思い入れがある。私の父である名和太郎は朝日新聞社の編集委員を経て評論家になった人物なのだが、父が松下さんの評伝を執筆する際、私もその制作の手伝いをしたのだ。

本が出たのは私が大学1年生の頃だったので、当時は18歳くらい。若い頃に松下さんの著書や伝記に数多く触れたことは、その後、私が自分なりの経営論を作り上げていく大きな助けとなった。

松下さんの残した経営論には、現代の経営を予言しているようなものが多いことに驚かされる。

たとえば、「力強さは使命感を持つところから生まれる」という言葉がある。本連載で述べてきた「志」の重要性をひと言で表している、私の大好きな言葉だ。

また、現代の経営は立体的になっていると言われる。単に利益を出せばいいわけではなく、多面的な軸で経営を考えねばならない。「何が善か」を判断しなくてはならないし、経営には「美意識」が必要だということも言われる。

そのことを、松下さんは「経営とは、総合的な生きた芸術である。白紙の上に平面的に価値を創造するだけではない。立体というか四方八方に広がる芸術である。となれば、経営者はまさに総合芸術家。したがって単なる金儲け、単なる虚栄のための経営であってはならない」というように表現している。

近年、「バックキャスティング」という手法が注目されている。

これは未来のあるべき姿から逆算して現在を考えるというもので、私が提唱している「すべての制約を取り払い、ありたい姿を描く」という手法(デイドリームセッション)はまさにバックキャスティングに他ならない。

これもまた、松下さんは「経営者は、いつも将来というものが頭にないといけない。5年後、10年後にどうなるか、どうすべきか。そのうえで、今どうしたらいいのかを考える」という趣旨のことを言っている。将来から現在を考えるのが、経営者としての発想だということだ。

皆さんにもぜひ、古くて新しい松下さんの考え方に触れてほしいと思う。

 

カリスマ性よりも等身大であることが大事

ただ、ひょっとするとこう考える人もいるかもしれない。「ミドルリーダーである私が、カリスマ経営トップに学んでも、意味があるのだろうか」

これに対して私は、明確に「ある」と答えたい。パーパス経営においては、トップだけではなくミドルも同様に、パーパス自分事としてとらえ、それを伝える必要がある。つまり、経営者と同じ視点を持たねばならないのだ。

さらに言えば、近年のリーダーにはカリスマ性よりも、等身大でありながら、みんなを正しい方向に導く資質こそが求められている。これを「オーセンティックリーダー」という。いわば、「本物感があるリーダー」だ。

アメリカでもいまや、トップの強烈なカリスマ性で組織を引っ張る企業は少なくなっている。

あえていえばイーロン・マスクとなるだろうが、テスラやツイッターが迷走しているのはご存じの通りだ。アップルやグーグルなどスタートアップの際は強烈なカリスマ性で引っ張ってきた組織も、今はこうしたリーダーに代わりつつある。

そんな「オーセンティックなリーダー」として私が思い浮かべるのが、ソニーを再生させた平井一夫さんだ。彼のリーダーシップは、自らがすべてを先導して社員を引っ張っていくというものではない。

むしろ、重視したのは、自信を失った社員たちの心に再び火をつけることだった。これを平井さんは「情熱のマグマを解き放つ」と表現している。それを愚直にやり通してきたことが、ソニー再生の一番の要因であるという。

この詳細は『ソニー再生』という本に描かれている。ぜひ、お読みいただきたい。

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