2023年01月05日 公開
今、世界的に注目を集めている「パーパス経営」。日本でもすでに先進的な企業はパーパスを中心とした経営を進めている。しかし、せっかく作ったパーパスが、単なる「額縁に入れた飾り」になってしまっている企業も多い。本当に重要な「パーパスの浸透」のために必要なこととは?
※本稿は、『THE21』2022年12月号に掲載された「志本主義時代のリーダー論」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
あなたの会社にもひょっとして、作ったはいいが誰からも顧みられないパーパスやミッション、ビジョン、社是といったものがあるのではないだろうか。
私はそれを「額縁パーパス」と呼んでいるが、実際、頑張ってパーパスを作ったはいいが、そこで力尽きてしまう企業は多い。より重要なのは、パーパスをいかに浸透させるかだ。
しかし、これがなかなか難しい。昨年、あるパーパス経営のセミナー(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー マネジメントフォーラム)の際に、参加者へのアンケートを行なった。
「明確なパーパス(企業の存在意義)やパーパス・ステートメントが明文化されているか」という質問に対しては、「はい」と答えた人が全体の約4分の3を占め、パーパスそのものは多くの会社に存在していることがわかる。
一方、「パーパス経営を行う上で抱えている課題を教えてください」という問いに対しては、約40%の人が「従業員への浸透が進まない」と答えており、回答率としてはこれが一番高かった。
やはり、多くの企業が「パーパスを作ったはいいが、浸透していない」という問題を抱えているということだろう。
ちなみに、このアンケートでは「パーパス経営の実践によって、どのような企業価値が生まれると思われますか?」という質問も行なったが、これに対して最も回答率が高かったのは「ブランド価値、レピュテーション向上」であり、次点が「従業員体験価値(EX、ES)向上」であった。
これはまさにその通りで、パーパスが浸透すれば、「顧客」「従業員」双方に対して大きな効果が期待できる。そして顧客に支持されるからこそ売上が上がり、従業員の満足につながる。
また、従業員がパーパスによって働き甲斐を得ることで、提供する製品やサービスの価値が上がり、顧客にさらに喜んでもらえる。実はこの点は極めて重要だ。
昨今はコーポレートコミュニケーションという言葉の下、どのようなメッセージを発信するかにばかり注力する企業が多い。それを否定はしないが、いくら口でいいことを言ったところで、その会社の提供するモノやサービスの価値が低ければ何もならない。
製品やサービスを通じてパーパスを伝えること。これこそがパーパス経営の一丁目一番地であるということを、再度認識しておいてほしいと思う。
話をパーパスの浸透に戻そう。ここで、ある興味深い研究結果をご紹介したい。ハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフェイム教授による、ROAとパーパスの関係についての研究だ。
ROAとはReturn On Assetの略で、「総資産利益率」などと訳される。投下された資本に対してどのくらいの利益が得られたかを示す指標で、企業の収益性の高さだと考えてもらえばいいだろう。
セラフェイム教授の研究によれば、企業のミドル層がパーパスを繰り返し口にすればするほど、ROA、つまり企業の収益性は高くなるという。
一方、トップ層に関しては、パーパスとROAにはほとんど相関がなかった。トップがいくらパーパスを連呼しても、収益性向上にはつながらないということだ。
この結果には驚いた。アメリカのようなトップダウンの国ならば、トップの熱意さえあればパーパスが浸透し、経営結果にも表れると考えていたからだ。やはり面従腹背は、どの国にもあるものだ。いわんや日本では、この傾向はもっと顕著だろう。
トップが毎日のようにパーパスを連呼するのを社員が冷めた目で見ている、という企業の話も聞く。そんな「パーパスおじさん」「パーパスおばさん」だけでは企業は変わらない、ということだ。
そう、日本でもアメリカでも、カギを握るのはミドル層だ。トップと現場との間には相当な距離がある。ミドルがトップの声を自分の言葉としてメンバーに伝え、そしてまたメンバーの声を吸い上げる。
これはまさに、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が提唱する「ミドルアップダウン」そのものだが、それこそがパーパス浸透のカギを握るのである。
更新:11月21日 00:05