実は今、社会人野球でコーチをしています。社会人は、これまでのキャリアで唯一経験していない分野。話をいただいてすぐに快諾しました。
今の原動力は、現役時代とは対照的に「したいことをする」こと。経験のない分野の仕事にどんどん挑戦していきたいですね。テレビで大食いに挑戦したり、野球とは違うスポーツの取材に行ったり。かなり「興味の赴くまま」に動いています。
逆に、NPBでのコーチや監督は、できれば今後もやりたくない(笑)。想像以上に多忙で、重責ですからね。引退後にあんな大変な仕事をせずに済むよう、現役時代にあれほど頑張って稼いだのだと思っています(笑)。
とはいえ、野球界に何か恩返ししたいのも事実です。そこで自分ができることは......と考えると、やはり若い人や子どもに目が向きます。特に気がかりなのは「野球をしたくてもできない子」のことです。
今の日本には、経済的な理由で野球を諦めざるを得ない子どもが一定数います。数あるスポーツの中からせっかく野球を選んでくれた子が「硬式野球はグラブが高額で......」なんて理由で離脱しなくて済む環境作りに貢献できれば最高ですね。
また、取り組むスポーツの選択肢が増えた一方、身体を動かす機会自体が減っていることにも危機感を覚えています。ゲームやバーチャル世界での娯楽に慣れた子どもたちに、生身の身体を動かす躍動感や達成感も知ってもらいたい。
すでにその道でお金をもらっているプロを指導するより、そういう「これから」の世代にアプローチしたいかなと。それが、私らしい貢献ではないかと思っています。
【鳥谷敬(とりたに・たかし)】1981年、東京都生まれ。聖望学園高校から早稲田大学野球部を経て、2003年に自由獲得枠で阪神タイガースに入団。NPB歴代2位の1,939試合連続出場など数々の記録を打ち立てる。ゴールデン・グラブ賞5回など、守備の名手としても知られた。
13年にはWBC日本代表に選出。21年に現役引退。現在は社会人野球部の指導にも携わる。近著に『疲れない体と不屈のメンタル』(PHP研究所)がある。
(『THE21』2023年2月号特集「私の原動力」より)
更新:11月23日 00:05