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核融合が切り札になるか? エネルギー自給率15%の日本は「危ない橋を渡っている」 

2026年01月26日 公開

田口昂哉([株]Helical Fusion代表取締役CEO)

田口昂哉

高市政権が重点投資対象の1つに位置づけるなど、注目を集めている核融合。公的研究機関である核融合科学研究所の知見を活用するHelical Fusionは、核融合による世界初の実用発電を2030年代に実現することを目指しているベンチャー企業だ。長らく夢のエネルギーと言われてきた核融合発電は、いよいよ実現するのか?日本の優位性はどこにあるのか? 田口昂哉CEOに話を聞いた。(取材・構成:川端隆人、写真撮影:長谷川博一)

※本稿は、『THE21』2026年2月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

「ヘリカル方式」の核融合炉で商用運転を実現する

核融合発電の仕組み

――核融合を実用化するうえで、超高温のプラズマを安定して維持することが大きな課題だとされてきました。御社が開発されている核融合炉では、社名にもある「ヘリカル方式」を採用しています。その理由は?

【田口】これまで様々な方式が考案されては淘汰されてきて、今、研究されているのは、レーザー方式とトカマク方式、ヘリカル方式にほぼ絞られています。

ヘリカル方式は、理論上、連続運転の時間に限界がないという、現時点で他の方式にはない特長があり、商用の発電所に使うのに適していると考えています。

核融合炉を動かすには、かなりの電力を必要とします。核融合発電所は、炉を運転するのに必要な電力を自ら賄ったうえで、なおかつ余剰の電力を生み出さなければなりません。また、商用運転のためには、保守にかかる時間やコストも抑えなければならない。

「定常運転」「正味発電」「保守性」という3つの条件を全部満たして初めて商用の発電所になり得ます。そう考えると、現時点ではヘリカル方式が最適であるというのが、我々の結論です。

――ヘリカル方式とはどんなものなのか、簡単に説明してください。

【田口】重水素と三重水素を1億℃という超高温にして発生させたプラズマを、電磁石の力で閉じ込めるのはトカマク方式と同じです。違いは電磁石のコイルの形です。ヘリカル方式では、二重螺旋の形に配置することで、安定性を生み出しています。

一方、他の方式ではプラズマを安定的にずっと閉じ込めておく見通しが現状では立っておらず、今後まだ技術的に大きなブレイクスルーが必要とされる段階です。実際、他の方式で発電所を造ろうとしている人たちは、断続的な運転を行なう前提で実用化を目指しているようです。

ヘリカル方式は、既に存在する技術をもとに、定常運転、つまり24時間365日の運転が可能と見られる点で、電力インフラとして非常に優れているのです。

 

失われかけた技術への再注目 研究の多様性が重要な理由

核融合

――そうしたメリットがありながら、ヘリカル方式を採用しているのは御社だけというのはなぜですか?

【田口】理由は2つあります。

一つは、過去60年ほどの核融合研究の歴史はほとんどが基礎研究で、まずはプラズマの温度をどうにか1億℃まで持っていくことが重視されていたことです。そこで、温度を上げやすいトカマク方式が核融合の実現に一番近いと目され、世界中の研究の主流がトカマク方式に集中した経緯があります。

もう一つの理由は、ヘリカル方式の螺旋型のコイルを作るのが難しかったことです。CADもない、3Dシミュレーターもない時代には、複雑な形の部品を作るのは困難でした。

そのような理由で、約40年前に始まったITERという国際協調のプロジェクトではトカマク方式が採用されました。日本以外ではヘリカル方式の研究はすっかり廃れてしまい、研究者やノウハウも失われています。

そんな中、日本でだけはヘリカル方式の研究が続いていました。そして、核融合科学研究所がヘリカル方式の大型試験装置建造に成功し、核融合反応に必要なプラズマ温度である1億℃を突破したのが2017年。この知見を活用しているのが当社です。先ほどお話ししたように、商用運転ではヘリカル方式が圧倒的に優位ですから、日本にとっては大きなチャンスです。

――世界の「主流」を追いかけてばかりでは、イノベーションは生まれないということですね。

【田口】まさにそうです。技術や研究は多様性がすごく大事なんです。複数の選択肢を持っておくべきだということは、当社から政府にもお伝えしています。

――ところで田口CEOは大学で哲学・倫理学を研究されて、修士号も取られています。なぜこの事業を?

【田口】核融合という分野を選んだのは、たまたま5年前、当社の共同創業者と知り合った縁です。それまでは核融合について何も知りませんでした。

大学では、文学部で哲学をやるか、理学部で宇宙物理学をやるか、迷っていました。当時はどちらかといえば、客観的なマクロの問題よりも、自分自身から出てくる問いのほうが切実だったので哲学を選びましたが、「根源的なものへの関心」という意味では、哲学と宇宙とで共通するものがあると思います。そして、星々は核融合エネルギーで光っているわけで、宇宙で最も根源的なエネルギーが核融合だと言えるでしょう。

人間は、人力に始まり、火を手に入れ、家畜を使い、石油や天然ガス、ウランまで活用するようになりました。核融合で太陽などの恒星と同じエネルギーを使えるようになれば、それは人類にとって最後のエネルギー革命です。そこに貢献できる可能性があるとしたら、こんなに面白いことは他にない。それがこの事業に携わろうと決めた理由です。

 

日本は核融合で「エネルギー覇権国」になる

――ロマンと可能性に満ちた核融合発電ですが、まだ実現していない技術に出資を集めるのは苦労されたのでは?

【田口】創業当初は、核融合がまだ今ほど注目されていませんでしたし、投資家に話しても相手にされませんでした。

僕は、仲間を集めるときのポイントは「同じ未来を見られるかどうか」だと考えています。この事業について言うなら「人類最後のエネルギー革命に成功して、世界のエネルギー覇権国になった日本」をイメージできる人か。そういう投資家には、当時、なかなか出会えませんでした。

ですから苦労がなかったわけではないんですが、そこはちょっと工夫をしたんです。同じ未来を見ていない人に「投資してください」と説得するのは効率が悪すぎます。会社のメンバーでビジネス面を担当するのは僕一人でしたし。

だから、「核融合は有望だし、面白い」と思っている人が、向こうから連絡してくれるのを待ったんです。

すると、成毛眞さん(日本マイクロソフト元社長)が見つけて連絡してくださって、ソニーからも連絡が来て......といったチャンスが徐々に生まれてきました。

ちょうどその頃、2021年に高市早苗現首相が初めて自民党の総裁選に出馬して、核融合を政策の一つとして取り上げたことで、注目を浴びるようにもなりました。

――首相就任後、高市首相は核融合の研究開発に総額1000億円超を投じる方針を決めました。

【田口】首相もおっしゃっているように、この技術は国家安全保障と密接に関連しています。日本はエネルギー自給率が15%もないので、常に危ない橋を渡っているとも言えます。

核融合炉の燃料である重水素は海水からも取れますし、三重水素は核融合炉の中で生成されます。ですから、資源のない日本が技術の力でエネルギー自給率100%を超え、エネルギー輸出国になれるポテンシャルを持っているのが核融合発電です。

――核融合発電所の海外輸出も考えているのでしょうか?

【田口】もちろんです。エネルギーをいかに確保するかというのは人類にとって大きなテーマであり続けてきました。それが戦争の原因にもなっています。

もしも核融合によってエネルギー問題が一気に解決されたとしたら、人類はどうなるのか。仮に、脳の半分が「エネルギーの確保と生存」のために使われていたとしたら、その負担がなくなった分、何を考え、何を生み出すようになるのか。もしかするとそれは、人類が新しい人間、ニーチェの言う「超人」に進化するということなのかもしれませんね。

 

プロフィール

田口昂哉(たぐち・たかや)

(株)Helical Fusion代表取締役CEO

京都大学大学院文学研究科(倫理学)修了。京都大学修士(文学)。みずほ銀行、国際協力銀行(JBIC)、PwCアドバイザリー(M&A)、第一生命、スタートアップCOOなどを経て、2021年、核融合科学研究所教授だった宮澤順一氏(現・HelicalFusion代表取締役CTO)、同助教だった後藤拓也氏(現・HelicalFusion取締役副CTO)とともに(株)HelicalFusionを共同創業。著書に『だから僕らは太陽をつくる』(日刊現代)がある。

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