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志を失う働き盛り世代...「ワークライフバランスの確保」が社員に響かなくなった理由

2023年01月05日 公開

名和高司(一橋大学ビジネススクール客員教授)

 

ワーク・ライフ・バランスは実は時代遅れ?

名和高司

そのために必要な発想の転換がある。「ワーク・ライフ・バランスからワーク・イン・ライフ」へのシフトだ。図2をご覧いただきたい。これはワークとライフ、つまり仕事と生活との関係を示したものだ。

昭和の時代はまさに、仕事が人生の中心だった。誰もがプライベートなど顧みず、会社人間として生きることを求められた。ライフは仕事の中にほんの少しだけ存在する、というイメージだ。

私が最初に入った三菱商事もまさにそうだった。平成になると、「ワーク・ライフ・バランス」という、ワークとライフを同等に扱おうという考え方が現れた。仕事は仕事、生活は生活ときっちり切り分ける。どんなに忙しくても定時に帰り、プライベートには仕事を一切持ち込まない。

この考え方は昭和的な「仕事中心の人生」から抜け出すためには意味があったと思うが、私にはどうももったいなく思えてしまう。

仮に1日8時間働くとすると、それは1日の3分の1に当たる。そんな長い時間を「食べていくために我慢して働く」のは、とてももったいないと感じるのだ。19世紀のマルクス主義的な発想ですらある。

そもそも、仕事と生活とは完全に二律背反となるものなのだろうか。仕事の中で自分が本当にやりたいことができれば、それは人生の一部となる。当然、仕事にも志高く取り組むことができる。

このように、ライフの中にワークを入れるというのが、「ワーク・イン・ライフ」という発想であり、令和の時代にはこれこそが求められている。

 

「仕事は所詮、仕事」そんな人を動かすには?

このワーク・イン・ライフの実現のカギを握るのが、「パーパスの自分事化」だ。会社のパーパスと自分のパーパス、つまり本当にやりたいことを重ねることで、仕事を人生の一部に取り込むのだ。

一つ、エピソードをご紹介したい。ある企業でワークショップを行なった際、「仕事は仕事と割り切っているから、パーパスなどどうでもいい」という人がいた。

その人の趣味はギターで、一刻も早く家に帰りギターを弾くことが何よりも大事だというのだ。「なぜギターを弾きたいのですか?」と聞くと、「自分の演奏を聴いてもらうことで、多くの人に勇気や共感を与えたい」という答え。

そこで、「今の仕事で人々に勇気や共感を与えることも可能なのでは?」と言うと、「そういうことか」と納得してくれたのだ。

あくまで一例ではあるが、これが「パーパスの自分事化」だ。皆さんもぜひ、会社のパーパスと自分のパーパス、つまり自分自身の志ややりたいことを書き出してみてほしい。そして、その2つが重なるところがないか、考えてみてほしい。

その部分を見つけ、広げていくことが、パーパスの自分事化の第一歩となる。

 

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