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志を失う働き盛り世代...「ワークライフバランスの確保」が社員に響かなくなった理由

2023年01月05日 公開

名和高司(一橋大学ビジネススクール客員教授)

 

「志」が一番低いのはミドル層?

名和高司

しかし、残念なことにそのミドル層が、パーパス=志が最も低いという、残念な現実がある。

上の図1を見ていただきたい。いわゆる「M字カーブ」だ。20代で盛り上がったのちに30~40代半ばで大きく落ち込み、50代に入ると再び上昇する。

これを見て、かつての女性の年齢別の就業率を思い出す人も多いだろう。働き始めた女性が結婚・出産のために離職し、子育てが一段落ついた後に復職するため、ちょうどM字のようになる。

昨今では企業の出産・育児制度が整ってきたこともあり、このM字はかなり解消されつつある。しかし、ここに載せたのは女性の就業率ではない。「パーパス=志の活性度」を年齢別に示したものだ。

誰でも、入社直後は大きな志を持っている。ただ、そんな熱意も日々の仕事や数字に追われるうちに徐々に冷めていく。そして生活も忙しくなってきた30代から45歳くらいになると、どん底にまで落ちてしまう。

ただ、その時期を過ぎて幹部層になっていくとまた、パーパスの重要性に気づく。若い頃の思いが蘇ってきて、急に志を熱く語り始める。

ただ、この世代は現場と距離が離れているため、熱く語れば語るほど、「パーパスおじさん」「パーパスおばさん」などと陰口を叩かれる。極めて残念な状況だ。

 

ミドルクライシスは世界的な傾向

これは別に印象論ではなく、実際に多くの企業のデータを持つリクルートの調査結果からも、こうした傾向が見て取れるそうだ。しかも、その傾向はこの10年変わっていないという。

また、海外の知人に聞いてみると、欧米でも同様の傾向があるらしい。つまり「志を失ってしまったミドル」は、国も世代も超えた問題なのだ。

「最もパーパスが浸透しているのは入社試験を受ける学生だ」という冗談がある。会社のHPでパーパスを調べ、「御社の姿勢に共感しました!」などと熱く語っているときがピークだということで、案外、真実かもしれない。

そして、入社試験で熱く志望動機を語る学生を見ながら、「俺にもこういう時代があったなぁ」と遠い目をするミドル層...そんな残念な情景が目に浮かぶ。このM字カーブを解消すれば、何が起こるだろうか。

30歳から45歳というのは、仕事において最も脂の乗った時期である。その世代が強い志を持つことができれば、まさに鬼に金棒。生産性も創造性も急上昇することは間違いない。

 

御社は「ゆるブラック企業」になっていませんか?

では、志を失ったミドルを復活させるには、どうすればいいのか。カギとなるのは、「パーパスの自分事化」だ。

「ゆるブラック企業」という言葉をご存じだろうか。昨年、『日経ビジネス』で特集が組まれたので、読まれた方も多いかもしれない。

仕事は楽だし居心地もいい、しかしスキルはまったく身につかない。そんな企業で働き続けた結果、気がついたら自分の転職価値がまったくなくなっていた...。そんな企業を「ゆるブラック企業」と呼ぶのだが、昨今の働き方改革の結果、こうした企業が増えているというのだ。

これについては私も以前から警鐘を鳴らしてきた。仕事がきつくてスキルも身につかないのは完全なるブラック企業だが、働きやすくても力がつかない企業もまた、一種のブラック企業なのである。 

かといって、力はつくが超ハードワークという働き方は、今の時代にはそぐわない。つまり、現代の「ホワイト企業」は、「働きやすく、力もつく企業」でなくてはならないのだ。

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