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売上好調な企業が新社屋設立より先に「パーパス」を決めるべき理由

2022年12月16日 公開

名和高司(一橋大学ビジネススクール客員教授)

名和高司

今、世界的に注目を集めている「パーパス経営」。日本でもすでに先進的な企業はパーパスを中心とした経営を進めているという。しかし、それは単なる「お題目」であってはならない。血の通ったパーパスとはどういったものなのか、具体的な事例を挙げながら解説する。

※本稿は、『THE21』2022年11月号に掲載された「志本主義時代のリーダー論」より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

最高益のときこそパーパス策定のチャンス

「パーパス」(志)を中心に据える「パーパス経営」(資本主義経営)という言葉は、昨今、あらゆるところで聞かれるようになっている。

実際、ソニーやファーストリテイリングのような大企業から、中川政七商店やスノーピークのような中小企業まで、国内外問わず、多くのリーディングカンパニーが今、パーパス経営を実践している。

では、パーパスは具体的に、どのように作ればいいのだろうか。実際、「パーパスは具体的にどのように作ればいいのか」という質問をいただくことは多い。最もよく聞かれるのが、タイミングだ。

もちろん、思い立ったときに作ればいいのだが、ベストなのは何らかの区切りになる時期。例えば新社長就任時や、「創業○○周年」などのタイミングである。あるいは、今後の成長戦略を策定しようという際に、まずパーパスの策定から入るのもいいだろう。

これから事例として説明する仙北谷のように、あえて危機の際にパーパスを策定するのもアリだ。しかし、できれば順調なときにこそ、パーパスを策定したい。危機時にはとにかく目の前の問題解決が優先されるため、なかなか余裕を持ってパーパス策定に取り組めないからだ。

私はしばしば冗談半分で、「最高益のときに新社屋を建てる企業はダメ。最高益のときこそパーパスを作るべき」と言っている。最高益というのはつまり、その後は下り坂になっていくということでもある。また、好調なときというのは意外と慌ただしく、先のことを見据えた投資がおろそかになりがちだ。

例えば今、半導体業界は極めて忙しいが、そんな中でパーパスを策定しようという動きがいくつもの会社で起きている。非常にいいことだと思う。

 

危機に際し、あえてパーパス作りに挑戦

続いて「誰が作るのか」だが、これはその会社の社風によって違ってくる。オーナー系企業ではトップが主導して作ることが多く、そのほうがうまくいくことも多い。

ユニークな例としては、ホームセンターを運営するカインズは、創業家に代わり外部から社長になった高家正行氏が、「くらしDIY」というパーパスを策定した。外部にいたからこそその会社の本質が見える、ということもある。

ただ、私自身が携わることが多く、また、お勧めもしたいのは、様々な階層や年齢の人を集めて選抜チームを作り、チームでパーパスを策定するという方法だ。

ここからは、ある会社の実際の事例をもとに解説していきたい。その会社とは、横浜市にある切削加工業者、仙北谷である。社員数は26名(当時)。創業60年を超える老舗企業で、その製品は宇宙事業にも使われているなど、高い金属加工技術を持つ会社である。

創業家の先代社長が急逝したことで、社員だった植田竜也氏が社長に就任したのだが、その直後にコロナ禍が発生し、売上は大きく減少。そんな危機の中、植田社長はあえてパーパスの策定を決断。日本経済新聞の企画で、私がそのお手伝いをすることになったのだ。

まず、私がパーパスとは何かのレクチャーを行なった。パーパスとはいわば「北極星」。全員が目指すべき道しるべである。

海外では「マッシブ・トランスフォーマティブ・パーパス」などという言葉がよく使われる。また、グーグルなどが使っている「ムーンショット」という言葉もこれに近い。日本語にすれば「夢」になるだろうか。

重要なのは、自分たちが「ワクワク」するもので、かつ、自分たち「ならでは」のもの、そして当然ながら「できる」ものでなくてはならない。

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