2024年11月14日 公開
組織やチームの成長、個人のキャリアを大きく左右する要素として、主体性が重要視されています。しかし、主体的な社員を育て、主体的なチームを創り、ビジネスを成功に導くためには単に社員一人ひとりに働きかければよい、というものではありません。
そこで年間300社を超える企業に対しビジネスコンサルティング&研修プログラムの企画・開発・実施までを行っている株式会社HRインスティテュート代表取締役社長の三坂健氏が、組織の強みや個性を活かし、企業風土や文化といった環境を整えながら、社員が主体的に活躍するチームを創る方法を3回に分けて解説します。
第2回の本稿では、会社「らしさ」を共有する重要性について紹介します。
組織に身を置いて仕事をしている人なら誰しも自社の「らしさ」について口にしたことがあるのではないでしょうか。それは「うちらしい」や、「うちらしくない」といったものです。
例えば、新商品や新サービスを立ち上げる時、プレゼンテーションの後に役員から「うちらしい提案をしてくれてありがとう!」と承認をもらったり、一方で「ちょっとうちのらしさとはかけ離れている印象を持ったなぁ」などと再考を促されたりするシーンに遭遇することがあるはずです。
この「らしさ」とは一体何でしょうか。企業が大切にすべき「らしさの源」は次のとおり2つあります。
・会社が目指す姿を表すミッションやビジョン、パーパス など
・会社がもたらす価値を表すバリュー、ウェイ、イズム など
前述のミッションやビジョン、パーパスといったものは主に社会全体、お客様、社員を含むステークホルダーに向けて発信され、自社や自事業の存在意義を示すうえで重要です。
そしてこうしたミッション、ビジョン、パーパスと関連付けて主に社内に向けて定着が図られるものがバリューやウェイ、イズム、つまり「らしさ」です。この「らしさ」が共有されている組織では、組織が大切にしている価値観や考え方、行動様式に基づき現場が自律的に判断し行動できるようになります。
また、自分が所属する会社が目指す方向や大切にしているバリューをしっかりと理解、共感し、自分の言葉で説明することができる社員の割合が高ければ高いほど、その会社の一体感は高まり、同じ方向を向いて切磋琢磨を繰り返す集団となります。
反対に、社員がこうしたバリューに関心を向けず、また経営側もそのことを問題視しないようであれば、それは単なる寄せ集めの集団となり、相乗効果が生まれにくくなります。社員を育成し、組織を強くするためにもまずは企業として大切にする考えや価値を言語化し、社内外に発信し、定着する活動が欠かせません。
「らしさ」のある組織では、社員が自律的に行動しやすくなることに加え、自然と上司と部下、同僚間の壁打ちが行われやすくなります。「らしさ」の中にはその組織が大切にしている価値観が含まれます。それ自体が他社と差別化する競争優位性として位置付けられることから、「らしさ」を意識した壁打ちは、新たな商品やサービスを生み出す際にも自然と競合と異なる特徴を考えたり、実装したりすることに寄与する効果があります。
一方で、「らしさ」が共有されていない組織の壁打ちは数字ありきのものになる傾向があります。売上、利益、シェア、顧客数、訪問数......。
もちろんこれらも大切な指標ではあるのですが、こうした数字のみに焦点を当てた壁打ちは競争優位性を生み出すどころか、数字的に魅力がある市場であればなおさら競合も数字を意識して論理的にアプローチしてくることを踏まえると、競争を回避するどころかむしろ競争に巻き込まれていくリスクを生じさせます。
「らしさ」の存在は社員や関わる人の心理的安全性を高めることにもつながります。心理的安全性の高い職場は、社員が思ったことを気軽に発言したり、上司や同僚に相談できるばかりか、考えていることを少しだけトライしてみて、その結果をもとに周囲にプレゼンテーションできたりすることから、結果的に生産性が向上するだけでなく、イノベーションを生み出しやすくなります。
この心理的安全性を高めるうえでも「らしさ」の存在は重要な要素となります。組織が何を大切にしているのか、ということを明確に示すことは、社員にとってむしろ自由度が高まることになります。ルールは最小限にし、「らしさ」を共有するスタイルのマネジメントこそ、社員が思い切り仕事をできる環境をつくり出すのです。
以前、米国のマリオット等で長くホスピタリティ教育に従事された方のお話を聞く機会がありました。その際に「最高のサービスはどのように生まれるか」という話題になったのですが、「『こうしなさい』『ああしなさい』という教育では一定のサービス品質には届くけれど、最高のサービスには至らない。
最高のサービスはむしろ逆で、大きな価値観としてのそのホテルらしさをしっかりと伝えたうえで、これだけはやってはいけない、というタブーを明確にし、残りを余白として残しておくことで生まれる」とのことでした。
前者のアプローチよりも、後者のアプローチのほうがホテルスタッフの裁量や判断の自由度が高まります。「らしさ」を明確にすることで組織の心理的安全性を高め、余白の中で社員に思い切り仕事をしてもらう。こうすることで組織の生産性だけでなく、働く人の意欲の向上にもつなげることができるようになるのです。
今は多くの企業がミッション、ビジョン、バリューを掲げています。重要なのはそれらをお飾りにしないために「言語化」するプロセスに社員を巻き込むことです。ここでいう言語化とは、結果としてこうなったよ、うちが大切にするのはこれだよ、と社員に示すのではなく、
・それってどういうこと?
・自分の言葉で説明すると?
といった問いを立て、メンバー一人ひとりがミッション・ビジョン・バリューを自分事とするアプローチです。
言語化することで自社の「らしさ」がより明確になり、自分たちの行動指針として自分事化することがでます。また組織としても主体性と一体感を持って行動することができるようになるのです。
更新:11月21日 00:05