2022年11月04日 公開
2023年02月01日 更新
定年後の居場所・生きがいとして重要性が認識され始めた「サードプレイス」。実は、定年前のキャリア後半を充実させるためにも、サードプレイスなどの越境体験は欠かせない。
そうは言っても、どうやって第一歩を踏み出したらいいかわからないという人も多いだろう。サードプレイスの探し方や最初の一歩の踏み出し方を、専門家に聞いた。(取材・構成:小笠原綾伽)
※本稿は、『THE21』2022年12月号特集「50歳から必ずやっておくべきこと」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
令和2年の内閣府の調査によると、「親しい友人の有無」について、「いる」と回答したのは、日本の男性の57.4%、女性の73.2%です。同じ問いに対して、アメリカの男性は84.2%、女性は84.8%、スウェーデンの男性は79.8%、女性は90.5%が「いる」と回答しており、とりわけ日本の男性の「いる」という回答割合が低いことがわかります。
また、友人や仲間、その他の集団と交流のない人の比率を国際比較してみても、日本は群を抜いて高いという結果が出ています。日本は会社員同士の結びつきが強く、疑似家族のような存在でさえあるため、「会社以外に親しい交友関係がない」ということが起きていると推測できます。
さらに、50代以降の男性の多くに、仕事に専念するために家事や育児、地域との交流には長らく参加せず、会社以外のコミュニティーとの交流が少ないという影響がありそうです。
その結果、役職定年を迎えたり、退職して会社の外に出たりすると、たちまち孤立してしまうケースもあるようです。
定年後の社会的な孤立を危惧する方は多く、「サードプレイス」をテーマにした講演会を開くと、40代、50代の方が積極的に参加してくださいます。
サードプレイスとは、家庭(第1の場)でも職場(第2の場)でもなく、居心地が良くて、まったりと過ごすことができる「第3の場所」のこと。地位や年齢を気にせず、他者と対等に交流することができるカフェのような特徴を持つ場所です。
このような居場所があると、仕事では出会えないような属性の人と交流の機会を得られ、上下関係のないフラットなコミュニケーションが可能になります。
会社で素晴らしい実績を積み上げてきた50代のある男性は、「もっと地域の交流に参加しなければ」と思い立ち、ビブリオバトル(面白いと思う本を紹介し合うコミュニケーションゲーム)のサークルに入りました。
サークルのメンバーには若い人たちもいて、そこでは会社の常識が通用しないことに彼は衝撃を受けます。
会社ではそれなりの地位や実績があり、部下もいるのに、ビブリオバトルのサークルでは完全にアウェー。そのことが彼の好奇心に火をつけ、会社での地位やプライドにこだわらずに、あらゆる年齢層の人とフラットに交流することに夢中になっていきました。
サードプレイスの種類
講演会でそんな話をすると、皆さん大きな関心を寄せてくださり、サードプレイスを探すことに積極的な姿勢を見せてくださいます。でも、そのあとに必ず、「でも、どうやって見つけたらいいですか?」という質問を投げかけられます。
そこで私は、5人くらいのグループを作り、これまでのサードプレイス体験をお互いに語ってもらうワークをしています。すると、5人中2人は、すでにサードプレイスを持っていることが多いのです。
その体験を披露してもらうと、残りの3人も、「そういえば昔所属していたあの場所はサードプレイスだったかもしれない」と過去の記憶が呼び覚まされます。サードプレイスがないのは、たまたま今仕事が忙しいからで、かつては自分にも、家庭や職場以外に居場所があったことに気づくのです。
それに加えてサードプレイスを持っている人がいきいきと体験談を語る姿を見ると、積極性が出てきます。
その積極性が出てきたところで私がお勧めしているのが、サードプレイスを持っている身近な人、親しい人にお願いして、連れて行ってもらうこと。いきなり地域のサークルやNPOの門を叩くのは勇気がいりますが、知り合いがいると、ハードルはぐんと下がるものです。
何を隠そう私も、会社員時代は仕事ばかりしていて、サードプレイスなどありませんでした。すると、社会人大学院に通っている上司が、そんな私を見かねて、「石山、仕事ばかりしてると視野が狭くなるぞ。お前も社会人大学院に行ってみたらどうだ?」と声をかけてくれたのです。
その言葉をきっかけに社会人大学院に通い始めた結果、研究の楽しさに目覚め、ついには会社を辞めてアカデミアに身を置くようになったくらいです。
上司がサードプレイスを持ち、部下にその良さを伝えるというのは一番の理想です。手も足も出ないアウェーの場に身を置き、異なる年齢層の人から教えてもらったり、アドバイスをもらったり、新たな知識を得たりすることを、私は「越境学習」と呼んでいます。
越境学習に積極的な上司のもとでは、部下も遊び心を持った自由な発想ができるようになり、仕事にもいい影響がもたらされます。
そのため、企業では「本来セカンドプレイスである職場の中にサードプレイスをつくる」という試みも始まっています。例えばAGCでは、活動資金や場所は会社が提供するけれど、内容に関しては一切口出しせず、仕事にまったく関係ないことをしていいというルールのもと、サードプレイス活動が行なわれています。
例えば、普段は別々の部署で仕事をしている技術者たちが集まり、「ガラスのバレーボールを作るぞ」と大いに盛り上がったそうです。
50代の方には、このような「好奇心を忘れず物事を楽しむ姿」や「遊び心を持って行動する姿」を、若い人たちに積極的に見せてほしいと思います。
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更新:11月21日 00:05