2022年10月27日 公開
2023年01月18日 更新
――たまえには周りの人を元気にする力があります。のんさんにはどのような力があると思いますか。
【のん】「晴れ女です!」と言いたいのですが、三田さんには敵わないので(笑)。他に挙げるのであれば、「ヒーローであること」が私の持つ力だと思っています。ヒーローというポジションにいて、周りを明るくする役割を求められていることは自覚しているので。
――ヒーローであることと、役選びは紐づいていますか。
【のん】深く紐づいています。私は無鉄砲な女の子が人生を切り拓き、そして周囲を引っ張っていくというヒーロー的な役柄で、たくさんの方々に知っていただきました。そのイメージを払拭すべきとは、今まで考えたことがありません。イメチェンが有利に働く人もいると思いますが、私はそのイメージのストライクゾーンがすごく深かったと思うので、真逆の役を演じることが得策にはならないと信じているからです。
だからこそ、オファーをいただいたときは常にこう考えます。人に一番響くパワーのある演技をしたいと思ったときに、自分にはどういうイメージが求められているのか。そのイメージから逸脱せずに、なおかつどう驚かせるのか。この2つを同時に考えることが大切なんです。
――ご自身をかなり客観視されていますね。
【のん】「チームのん」の存在が大きく影響していると思います。これは、「のん」をどうプロデュースして活動していくかを考える、クリエイティブチームです。
私は自分が行なった活動、つまり演技や表現が一番いい形でパワーをもって届いてほしいと思っているのですが、それを実現していくにはどうすればいいか。各自がアンテナを張り巡らせて情報やアイデアを集め、次は何をしようかと日々話し合いを重ねています。自分では気づかないことに気づいてくれることも多く、私にとってかけがえのない存在です。
――現在は個人でセルフプロデュースする芸能人が増えていますが、チームを組む理由は?
【のん】他者の意見を聞きたいからです。意見交換をしても、最後は自分がもともとやりたかったほうを選択することもあります。ただ、そうした話し合いの中で自分のクリエイティブが形成されていると思うので、話し合うことはとても大事にしています。話しているうちに頭の中が整理されたりもしますしね。
――一緒に働く相手に対して、大切にしていることは何ですか。
【のん】未熟な人間なので、頭で考えているだけで実行できていないことも多いですが、意識するようにしているのは「意見をすり合わせる」ということです。
仕事相手と意見が合わないことは当然あります。そういうとき、性格的には白黒つけるほうが好きなのですが、極力0か100かで物事を考えないようにしています。
白か黒か、0か100かではなく、その間にいくつもの選択肢があると考え、仕事のゴールに対してベストなものを共に探っていく。私は人とコミュニケーションをとるのが苦手なので、そういうことが自然にはできないんですよね。だからこそ自分で強く意識して、すり合わせをするようにしています。
──意見が合わないと、つい感情的になってしまったりしますよね。
【のん】「自分の知らない世界や自分の理解できない世界がある」ということをちゃんとわかっておく。それが大事だなと思います。言い換えると、自分のモノサシだけで考えない、ということかもしれません。
例えば映画の現場であれば、いっぱい関わる人がいて、それぞれの方の意見があります。そのとき自分のモノサシだけで考えていると、「自分とは考え方が全然違う!」「ひょっとして私、嫌われているのかも……」などと思ってしまいます。
一方、相手の意見を「そういう考え方もあるんだ」「そういう世界観もあるんだ」と受けとめられると、感情にとらわれないで柔軟に対応できるし、「じゃあその中で私はどう出たらいいのかな」と次の作戦も考えられるんです。
――今うかがったお話は部下を持つビジネスパーソンにとっても大事なことだと思います。最後に、のんさんにとって「理想の上司」とは?
【のん】うーん、どうでしょう……。いろいろと「分けて考えてくれる人」かもしれません。人間的な好みは別にして仕事をちゃんと評価してくれるとか、自分の好みとその仕事におけるベストを区別して判断してくれるとか。あとは、やはりリスペクトの気持ちを持って接してくれることですね。そう言っている私も事務所の代表なので、忘れずに仕事をしていかなければと思います。
©2022髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会
『天間荘の三姉妹』
2022年10月28日(金)全国公開
配給:東映
出演:のん、門脇麦/大島優子
高良健吾、山谷花純、萩原利久
平山浩行、柳葉敏郎、中村雅俊(友情出演)/三田佳子(特別出演)
永瀬正敏(友情出演)、寺島しのぶ、柴咲コウ
天涯孤独な少女・小川たまえは交通事故で臨死状態に。「もう一度現世に戻って生きる」か「天へと旅立つ」か決めるまで、天界と地上の間にある町・三ツ瀬にある旅館「天間荘」で過ごすことになる。そこでは初めて出会う腹違いの二人の姉が待っていた。家族の愛情や友情を知り成長していくたまえだったが、ある日三ツ瀬の町とそこに住む人びとのあまりに大きな秘密を告げられる。たまえはいかなる決断を下すのか。
【のん】女優・創作あーちすと
1993年、兵庫県生まれ。2016年、劇場アニメ『この世界の片隅に』で主人公・すずの声を演じ、第38回ヨコハマ映画祭で審査員特別賞を受賞。2017年には自ら代表を務める音楽レーベル『KAIWA(RE)CORD』を発足。2018年には展覧会『‘のん’ひとり展‐女の子は牙をむく‐』を開催するなど、「創作あーちすと」として音楽・アートの分野でも活動を続けている。今年2月には、脚本・監督・主演を務めた初の劇場長編映画『Ribbon』が公開された。
更新:11月23日 00:05