2022年10月27日 公開
2023年01月18日 更新
女優業にとどまらず脚本・監督も手がけ、音楽・アートの分野でも活動しているのんさん。なぜかくも多分野で活躍できるのか。主演を務める映画『天間荘の三姉妹』に関するお話とともに、その仕事観についてもうかがった。
<構成:内埜さくら、写真撮影:遠藤宏、ヘアメイク:菅野史絵(クララシステム)、スタイリスト:町野泉美>
――映画『天間荘の三姉妹』では三姉妹の三女・小川たまえを演じています。原作を読んだときの感想をまず教えてください。
【のん】プロデューサーの真木(太郎)さんから「この作品を実写化します」と渡され拝読したのですが、とても感銘を受けました。今まで遺族の方々にお話を聞かせていただき、その思いに寄り添う経験はありましたが、この物語は亡くなった方々の視点からも描かれていたからです。
ファンタジーのエッセンスも組み込まれている原作を読み進めていくうちに、こうも思いました。
遺族の方々が亡くなった方たちのことを想っているように、亡くなった方々も残された方たちのことを想っている──そう想像できるようになることで救われる方は多いはず。止まっていた時間が再び動き出し希望を持つことができる、そんな作品に仕上がるのではないかと。
――では出演を決めるのに迷いはなかったですか。
【のん】それが迷いました。オファーをいただいた時点では、他の俳優さんのキャスティングをはじめ、まだ何も決まっておらず、原作しか情報がなかったからです。
判断材料が少なくて困りはしましたが、「この作品が実写化されるのであれば、ぜひ参加したい」という強い気持ちに後押しされました。真木さんは私が原作に惚れ込むとわかっていて、先に原作だけを渡したのでは……と想像すると、「ちょっとずるいな」と思いましたが(笑)。
――演じたたまえを、どういう少女と捉えましたか。
【のん】たまえは現世では天涯孤独な子です。しかも誰にも必要とされず、とても傷ついている。そんなたまえが交通事故で臨死状態に陥り、天界と地上の間にある町・三ツ瀬にある旅館「天間荘」で過ごすことに。そしてそこには、腹違いの2人の姉(長女・天間のぞみ=大島優子。次女・かなえ=門脇麦)とその母(恵子=寺島しのぶ)がいます。
たまえはつらい経験をしてきたからこそ表面上は底抜けに明るく、ピンチが訪れても「大丈夫です!」と乗り切る。現世でも三ツ瀬でも性格は変わっていなくて、明るさで自身を武装しています。一方で、恵子に自分が邪魔者扱いされているとわかると卑屈になり、言葉では「私の責任です」と言いながらも、胸中には悲しみや怒りを内包している。
どんな役にも裏腹なセリフはありますが、たまえは表と裏の言葉の幅が広いので、その幅をうまく表現できたらと思い演じました。
――のんさん流の役作り方法は?
【のん】役に関してノートに書き出すようにしています。役の人生の目的を設定して、その障害になっている物事を書き出す。その後、シーンごとに役の目的を落とし込んでいく。ハリウッドではポピュラーな方法らしいです。
たまえに関しては、何を人生の目的としている人だろうかと考えて、「彼女は自分の居場所や役割を求めている子だ」と思い至ったんです。実際、たまえは人生初の家族や三ツ瀬の人々にかわいがられることにより、自分の居場所を見つけていきます。だから、三ツ瀬にい続けようと踏ん張ったのだと思います。
――たまえは三ツ瀬で、イルカのトレーナーになるという目標も持ちますよね。
【のん】イルカとのシーンは挑戦してみないと結果がどうなるかわからなかったので、不安でたまりませんでした。作中で次女のかなえが言っていた通り、イルカは賢いうえに従順ではなくて。自分の意思を強く持ってトレーニングしないと舐められてしまい、言うことを聞いてくれないんです。
最も大変だったのが、円を描いて泳ぐイルカのおなかに乗るシーン。自分の体重移動で舵を切るため、強い体幹が必要とされました。ヒレに乗ってジャンプさせてもらうシーンも、すごく難しかったです。撮影日と練習日を含めて合計2週間ほど一緒にいたので、たまえの成長ぶりをぜひ劇場でご覧いただきたいです。
――本作は、豪華な俳優陣も話題です。共演シーンが多かった三田佳子(財前玲子役)さんからは、どのような学びを得ましたか。
【のん】三田さんは、セリフの一音目から「私は財前よ」というイメージがガツンと入ってくる演技をされるんです。声の響かせ方や、カメラに撮られるときのギアの入れ方、セリフがないときの佇まいもですが、圧倒的な存在感を目の前で見ることができて興奮しました。
あと、三田さんが現場にいらっしゃると決まって晴天になるんです。三田さんが乗っていらっしゃった車の通り道だけが晴れるとか、三田さんにだけ太陽光が当たるように晴れるとか。大スターの持つパワーというものを目の当たりにし、少しでも近づけるように、もっともっと精進していかねばと思いました。
更新:11月21日 00:05