私も近年、世代や職業の違う人との交流が増えました。例えば、親しくさせていただいていて、書籍『Unlearn』を共著で書くことになった為末大さん。
彼はご存知の通りスポーツ界の人で、年齢も15歳下。為末さんと話していると、異なる背景を持つ人ならではの見解にハッとしたり、背景が異なりつつも共通する点を発見したりと、良い刺激を受けています。
ちなみに若い友人と接するとき、「先輩風」を吹かせるのは禁物。それを防ぐには「話す」より「聞く」に重点を置くのがコツです。人の経験や考え方に耳を傾けると、自分の仕事にも役立つ知恵になることがあります。
やはり10歳以上年下で、レストランのシェフをしている友人がいます。彼が語るには、シェフの仕事は料理を作ることだけではないのだそう。
お客さまにとってレストランは大事なコミュニケーションの場。晴れの日を祝う人もいれば、大事な商談をする人もいます。そうした一人ひとりのお客さまの目的が最上の形で叶うよう、料理のみならず全体のコーディネートを考えてサービスを提供するのがシェフの仕事だ、と彼は言います。
シェフの仕事は「味を追求すること」だと考えていた私は、目からウロコが落ちる思いがしました。そして、自分の仕事に当てはめても同じだと気づきました。海外で経済交渉などを行なう際は、「何をどう話し合うか」といった内容面だけでなく、会場の雰囲気なども含めた、トータルな場づくりを意識すべきだ、と。
なお、友人との会話が毎回こうした気づきを生むわけではありません。ですから「毎回、何か学びを得よう」などと意気込まず、まずは交流を楽しみましょう。くつろいだおしゃべりの中で、ときどき思わぬ形で発見を得る、という形が理想的です。
異なる背景を持つ人と接することは、「アンラーン」を促進します。会社という同質集団に身を置く中で、いつしか身についていた思考のクセを認識できるからです。「1つの考え方に凝り固まっていないか」と自問する機会が増え、思考の柔軟性が次第に戻ってきます。
この考え方は近年、「ダイバーシティ」という形で、組織の内側にも取り入れられています。年齢・国籍・性別の多様性を組織内に取り込むことで、違いから生まれるダイナミズムを促進しようという取り組みです。
ところが、固定観念に縛られたままダイバーシティと向き合うと、本質から離れた受け止め方をしてしまいがちです。つまり、「このワードは差別になるらしいからNG」「女性にこういう言い方をしてはいけない」といったルールを機械的に覚えて、「面倒な時代になった」と嘆く、という対応です。
ダイバーシティは決してそのような「縛り」ではなく、ポジティブな役割を果たすものです。異文化が接触し合うことは、組織の活性化のみならず、個人の発想をも広げ、成長を促します。一時的にはストレスを感じても、長い目で見ると、すばらしい学び直しになるのです。
経営や人事に関わる立場の方も、ダイバーシティを取り入れるなら「社会的要請に合わせて」という動機ではなく、イノベーション喚起のために行なう意識が大切です。
外国籍の人、障害を持つ人、LGBTの人などを雇用するなら、それは親切心でもイメージアップのためでもなく、「社の成長に益すること」だと認識しましょう。
そのうえで様々な違いと接し、ときに戸惑い、ときに発見を得ながら、固定観念や偏見をアンラーンしていきましょう。
更新:11月24日 00:05