「学び」というと、新しい知識や情報のインプットをイメージする人が多いのではないだろうか。インプットはもちろん重要だが、人生100年時代に活躍し続ける力を手に入れるためには、知識や経験を振り返って整理し直すことがより重要──為末大氏との共著『Unlearn 人生100年時代の新しい「学び」』が話題の柳川範之氏はそう指摘する。
(取材・構成:林加愛)
※本稿は、『THE21』2022年7月号特集「40代・50代で必ずやっておくべき「学び直し」」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
学び直しというと、「新しいことを勉強する」イメージがありますね。語学力をつける、プログラミングのスキルを習得する、そのために学校に通うなど「一念発起して行なう大がかりなインプット」だと思っている方も多いのではないでしょうか。
しかし学び直しは、そうした大きなイベントとは限りません。今、40代・50代を迎えている方々に有効な学び直しは、むしろ「日常的な振り返り」だと私は考えます。
40代・50代ならすでに知識や経験は十分蓄積されています。それに、多忙な時期ですから、大がかりな知識のインプットは負担が大きいでしょう。
そもそも「知識」というもの自体が、以前ほど価値あるものではなくなってきています。ひと昔前なら、知識の豊かな人は大いに尊敬されました。しかしネットが普及した今は、個々人が知識を頭に入れずとも、スマホを見れば事足ります。
ですから現代において、「物知り」であることはさほど意味を持ちません。より大事なのは、「今持っている知識を活用する力」です。
その力を鍛えるのが、振り返りです。これまで社会人として何を経験してきたか、どのようなスキルを獲得してきたのか、棚卸しをしてみましょう。
この作業も、大がかりである必要はありません。毎日5分程度、今日したこと、今できていることを書き出すだけです。いたって簡単ですが、その積み重ねは、今後のキャリアや生き方を確実に変化させるでしょう。
振り返りには、2つの目的があります。
1つは、これまでに得た経験の「抽象化・一般化」。個別具体的な経験から学びを抽出し、他の場面でも応用できるようにすることです。
もう1つは、「忘れる」ことです。誰しも長年働いていると、一定の価値観にとらわれやすくなるもの。その結果、発想力や柔軟性が次第に衰えてしまいます。そうなりそうな自分に気づき、固定観念から自分を解放する試みを「アンラーン(unlearn)」といいます。
「今日したことを書くだけで、そんなことができるのか?」と感じた方もいるでしょう。確かに、作業を羅列的に記録するだけでは、効果は期待できません。
お勧めなのは、何らかの「学問」をガイドにすることです。学問こそ、個別具体的な事例から法則性を抽出したもの。つまり、経験を一般化・抽象化するときの助けになるのです。
ビジネスパーソンなら経済学や経営学、法学など、社会科学系の本を選べば仕事との関連性も高く、役に立つでしょう。まずは書店で社会科学系の棚を見て、自分の仕事と関係のありそうな本を買ってみましょう。簡単な入門書で構いません。
また、全部読み通す必要もありません。仕事と関わりの深い部分だけピックアップすれば十分。本の読み方もまた、「インプット」より「抽出」が、40代以降に適した方法なのです。
本を読んだときの感じ方も、10~20代の頃とは違っているでしょう。学生時代は理論をインプットするのみですが、年齢を重ねると、経験と結びつけて考えられるようになります。
「あの経験はこういうことだったのか!」と、思い当たる感覚を得られればしめたもの。それは、振り返りが学びになる瞬間です。
更新:11月21日 00:05