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取締役になったのに…50代で味わった「人生最大の挫折」 そこから変わった人生

2021年02月09日 公開
2024年04月08日 更新

佐々木常夫(元東レ経営研究所社長)

佐々木常夫

これまで仕事に邁進してきた50代ほど、人生を振り返る時間を作らなかったため、自分自身や家族のことなどを驚くほど知らない人が多いと、元東レ経営研究所社長の佐々木常夫氏は語る。

同氏も50代に差し掛かったころ、自身の生き方を振り返り、人生の転換期にはそれに見合った戦略があることに気付いた。仕事、コミュニケーション方法、家族との接し方…50代が考えるべきキャリア戦略とは何か。

50代は、人生最大の転機と語る同氏に、50代からの人生の振り返り方と自然体で生きるコツをうかがった。

※本稿は、『THE21』2021年3月号より一部抜粋・編集したものです。

取材・構成:麻生泰子

 

人生の「忘れ物」に気づいた挫折経験

――人生100年時代において、50歳は折り返し地点。長く続く後半戦をどう生きるかは、現役世代を悩ませる大きな問題だ。

「50代は人生の大きな転機」と語る佐々木常夫氏は、東レ経営研究所社長を経て、現在は講演、ビジネス書のベストセラー作家としても活躍する。その足がかりを作ったのは、まさに50代だったと振り返る。

「私の50代は人生最大の挫折を味わった転機でした。肝硬変とうつ病を患う妻と自閉症の長男の世話に追われながら、同期トップで東レの取締役にまで上り詰めました。私にとって仕事は大きな生きがい。しかし、たった2年で子会社(東レ経営研究所)への転出を言い渡されたのです。

あのときの無念は、今思い起こしても苦いものがこみ上げてきます。しかし、おかげで自分の人生をじっくり振り返る時間ができ、人生で見すごしていた『忘れ物』に気づくことができた。あの挫折がなければ、ただ忙しいだけの会社人生で終わっていたかもしれません」

――挫折ならずとも、50歳を迎え、仕事、家族、健康、将来についてモヤモヤした思いや悩みを抱える人は少なくない。

「そのモヤモヤは、人生の転換期にさしかかっている証拠です。後半戦に向けて、これまでの生き方を変えるべきときが、いよいよ到来しているのです」

 

若者は「大きな夢」50代は「手が届く夢」

――佐々木氏によれば、50代を迎えたらまずやるべきは「人生の棚卸し」だという。子供時代から学生時代、新入社員から中堅へ――どんな人生を歩み、何を得て、何を失ってきたのかを思い巡らして、ノートに書き出してみるといい、と佐々木氏はアドバイスする。

「絵を描くのが好きだった、仏教学部に進みたかった、起業してみたかった等々、ホコリをかぶって眠っている夢や目標があるはずです。私は何歳になっても人は成長するし、夢や目標を持つべきだと考えています。

若いときの目標は大きいほどいい。でも、50代からは手が届く夢を目標にするのがいいと思います。その目標を実現していくことが、まだまだ自分はできるという自信につながるし、仕事とはまた違った充足感を与えてくれるのです」

――佐々木氏が50代になって見つけた目標の一つが「本を書くこと」だったという。

「きっかけは、週刊誌に取材された私の記事を出版社の社長が見て、本の執筆を依頼してきたこと。ただ、私の中にも『自分の経験を書き残しておきたい、誰かに伝えたい』という思いがあったからこそ、チャンスが巡ってきたのでしょう。そのチャンスに飛びついたのです」

――記事とは週刊誌「AERA」に掲載された「カエリーマン特集」。定時でさっさと退社している珍しい社長がいるということで佐々木氏に白羽の矢が立った。50代に挫折がなく、そのまま東レ本社の役員として多忙な日々を送っていたら、巡ってこなかったチャンスだろう。

「若い頃から、私は書くことを習慣化していました。入社以来の手帳はすべて取ってありますし、読んだ本、感動した名言などは片っ端から書き残していました。

書くことで自分の考えを整理し、それを何度も読み返すことで血肉と変えてきたのです。自分の楽しみとして続けてきたことですが、それが50代以降の生き方につながりました。

50代からは人生の振り返りや日々の思いや気づきを『人生メモ』として残す習慣を始めてみてはいかがでしょう。書くことで自分の本当の思いに気づくこともありますし、過去の自分の未熟さや過ちにハタと気づくこともある。

自分発見につながるのです。最初は漠然としているかもしれませんが、続けていくうちに形が見えてくる。それが50代以降の目標につながっていくと思います」

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