戦略デザインの現場と、作品制作の現場、それぞれの分野で創造性を発揮し、活躍している佐宗邦威氏と佐渡島庸平氏。オリジナリティにあふれたものを生み出す過程で、「観察」や「模倣」が必要だと語る両氏に、普通の会社員でも「創造力」を発揮する方法や、そのために実践すべき習慣を対談で聞いた。
(取材・構成:林加愛)
※本稿は、『THE21』2022年7月号「一生稼げる力がつく! 40代・50代からの「学び直し」大研究」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
――ビジネスにおける「デザインシンキング」の重要性を提唱される佐宗邦威さん、クリエイターと共に作品制作に携わる佐渡島庸平さん。本日は、異なる分野にいらっしゃるお二人それぞれの視点から、「創造性」を語っていただきたいと思います。
【佐宗】よろしくお願いします。佐渡島さんとは大学の同級でもあり、かねてからご縁を感じておりました。今回は私の新刊『模倣と創造』で帯の推薦文を書いてくださって、ありがとうございます。
【佐渡島】こちらこそ感謝です。素晴らしいご本でした。創造性を発揮するための「型」を提示されたことに、非常に意義を感じます。
【佐宗】嬉しいです。まさに、その点を意図して書きました。「型」を実践することで誰もがクリエイティブになれる、と。
【佐渡島】これまでも創造性をテーマにした本は数多くありますが、クリエイティブ分野の人が書く指南本は、ともすると著者の体験談に傾きやすく、理論との結びつきが弱くなりがちでした。対して佐宗さんは、手法を明快に抽出されています。創造に苦手意識を抱いていた方々も、実践につなげやすそうです。
【佐宗】私自身がもともと苦手意識を抱いていましたから(笑)。その苦手意識の根底にあるのは、創造=「すごいこと」だという思い込みです。
【佐渡島】「一部の天才にしかできない」といった思い込みですか?
【佐宗】そうです。でも、それは誤解ですね。創造には、Big-C(大文字の創造性)と、Mini-c(小文字の創造性)の2種類があります。前者はピカソの絵画のような、多くの方がイメージする偉大な創造。対して後者は、いわゆる創意工夫です。絵を描く、料理をする、動画を撮るなど。これは、誰にでもできることです。
【佐渡島】そうした創造の入り口が、「模倣」だとおっしゃっていますね。
【佐宗】はい。この「模倣」、佐渡島さんがご著書の『観察力の鍛え方』でおっしゃったことと、非常に共通性が高いと感じるのですが。
【佐渡島】はい、私も同感です。
――佐宗さんが語る「模倣」と、佐渡島さんが語る「観察」、どちらも創造に不可欠なプロセスなのですね。
【佐宗】私は「模倣」を創造の第一ステップと位置づけていますが、そのときに欠かせないのが「観察」なんです。例えば、何かを写生する際は、その対象を丹念に観察しますね。
すると、これまで気づかなかった微妙な違いが見えてきます。クリエイティブな感性を磨きたい方は、外界の様々なもの、景色、空間、何でもいいから、そっくりに描くつもりで観察してみてほしいですね。埋もれていたセンサーが、きっと動き出します。
【佐渡島】見え方が変わる感覚、ぜひ味わってほしいですね。
【佐宗】クリエイターの方々を育成されるときも、「模倣」は取り入れるのですか?
【佐渡島】ええ、不可欠なプロセスです。漫画家を志す人に、手本となるような作品を「マネの素材」として渡しています。
【佐宗】マネの素材ですか。具体的には、どうマネするのでしょう。
【佐渡島】習熟度によって、模倣のレイヤーは変わります。最初のうちは絵のタッチやコマ割りなど、具体的・表層的な要素の模倣ですが、徐々に物語の構造などの抽象・深層レベルの模倣になっていきます。
【佐宗】なるほど! エッセンスをマネるとなると、それはもはや、マネではない...。
【佐渡島】そうなんです。抽象を捉えて表現し直そうとするとき、それは自分の身体を通って、新しいものに変換されるのです。これが、模倣が創作になるプロセスだと思います。
【佐宗】「身体」という、物事を感じる拠点が、オリジナリティを生むのですね。
更新:11月21日 00:05