建設的な議論を可能にする4つのコミュニケーション能力
以上のように、「30分会議」は緻密な準備と集中力を携え、フルスピードで議論をする営みです。多くの言を費やすまでもなく互いが互いの意図を察し、立場の上下による忖度も一切ナシ。遠慮なく物が言えて、かつ建設的な議論をする場です。
これを可能にするには「基盤」が要ります(図)。まず、ストレートな物言いを下支えするのは、言うまでもなく説明力。ファシリテーターのみならず、各メンバー、ひいては社員一人ひとりが論理的かつ簡潔にものを言う力をつけたいところです。
さらにその支えとなる層が、人間関係構築力です。挨拶や気楽な会話など、各人が日頃から能動的にコミュニケーションをとることが大事です。
人間関係構築力には、他にも多くの側面があります。自分の価値観を随時アップデートできる柔軟性、何もかもに白黒つけようとしない「あいまいさ」の許容力、そして盲点となりがちなのが、「朝令暮改の許容力」です。よく「上司の言うことがすぐ変わる」と怒る人がいますが、この不満は了見の狭さの表れです。
会社組織では、ポジションが高いほど情報量が増えます。朝に言ったことがその時点では最適解でも、夕方に新たな情報が入ってくればいくらでも変わり得ます。しかも偉い人は多忙なので、経緯をいちいち説明する時間はありません。ですから、受け取った側も「聞いてない!」と怒る暇があるなら、迅速に推測して、察して、対応するべきなのです。
以上の力を支える、最も下にある土台が「アンテナ力」です。これは、世界の情勢から隣席の同僚に至るまで、「他者の状況」を察知する力のこと。自分と違う立場、背景、価値観、その日そのときのコンディションにまで思いをめぐらす姿勢を、一人ひとりが有していることが大事です。自由闊達な話し合いの根本にあるものは、こうした「思いやり」なのです。
マズローの欲求5段階説
こう言うと「そんな素晴らしい人々ばかり揃うはずがない」と思う方もいるでしょう。確かに、社員の能力や人格の成熟度には個人差があります。ですから会議では、出席者のレベルを揃えることを念頭に置きましょう。
ここで参考にしていただきたいのが、「マズローの欲求5段階説」。人間の欲求は、一番プリミティブな「生存」から始まり、それが満たされれば「安全」→「所属」→「承認」→「自己実現」と、より高次なものに移っていくという学説です。
これはビジネスパーソンにもそのまま当てはまります。「食べていけるだけの給与が欲しい」→「見合った給与を維持してほしい」→「仲間として受け入れてほしい」→「成果を上げて認められたい」→「自分の可能性を最大限に発揮して社会に貢献したい」というふうに。
建設的な議論ができるのは、第4~第5レベルまで到達している人たちです。給与だけを楽しみに働く段階の人が、「貢献」など考えられるはずもありません。キャスティングの際には、そうしたレベルの見極めも必要です。
さらに言うと、会議に限らず、社員全体のレベルが高い状態にあるのが理想です。個性は多様であるべきですが、レベル感は揃っていることが望ましいのです。その意味では採用の段階から、本人のモチベーションや、会社のカルチャーとの相性を見ておくことが重要と言えます。
「今さら言われても」と思われたかもしれませんが、もちろん、遅きに失したなどということはありません。
前述の通り、私自身は、ファシリテーションを務める先達の姿をお手本に、試行錯誤を重ねながら技量を少しずつ上げていきました。このように、上に立つ人が良きカルチャーを体現すれば、それがすなわち、部下育成となるのです。
準備の仕方、会議の回し方、日ごろのコミュニケーション、絶えず人を思いやること。部下を持つ人が、自らその姿勢と能力を磨き、率先垂範することで良い循環が生まれます。その先で、会社の新しい風土が醸成されていくでしょう。
【プロフィール】
山本大平(戦略コンサルタント/事業プロデューサー)
2004年、京都大学大学院エネルギー科学研究科修了。新卒でトヨタ自動車に入社、新型車の開発業務に携わる。その後TBSテレビに転職、「日曜劇場」「SASUKE」等の看板番組で、プロモーションおよびマーケティング戦略を手がける。その後アクセンチュアを経て、2018年にF6 Design(株)を設立。近著に『トヨタの会議は30分』(すばる舎)。
更新:11月25日 00:05