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年功序列が崩れても...「50代で店じまい」という常識を変えられない日本社会

2021年11月09日 公開
2023年02月21日 更新

児玉治美(アジア開発銀行駐日代表)

児玉治美(アジア開発銀行駐日代表)

海外で長く仕事をしてきた、アジア開発銀行駐日代表の児玉治美氏によれば、「50代」という年齢で、自分自身のキャリアや能力の限界を決める必要はないという。

その理由は、役職定年や定年は、社会や会社の都合によって決められた制度にすぎないからだと語る。詳しくうかがった。(取材・構成:林 加愛)

 

海外勤務で気づいた残念な「日本の常識」

実をいうと私は、年齢を意識したことがほとんどありません。ですから「50歳から」という考え方にも馴染みがなく、ある意味とても「日本的」だと感じます。

私は、キャリアの大半を海外で過ごしてきました。国際NGO「ジョイセフ」在籍中はバハマに勤務し、国連人口基金ではニューヨークに勤務。現在の職場である「アジア開発銀行(ADB)」入行後は、本部のあるマニラに10年間住みました。

ADBは、アジア・太平洋地域における途上国への資金援助と技術協力を行なう国際機関です。途上国の政府や企業が手がけている運輸・交通、エネルギー、保健、教育などのプロジェクトを対象に、融資や贈与を行ないます。

私は2年半前に駐日代表となり、18年ぶりに帰国しました。そこで改めて感じたのが、日本ほど「年齢」にとらわれる社会は珍しい、ということです。何歳までに結婚し、子供を持ち、職場では何歳で課長になり、部長になり……とマニュアル化された価値観に、多くの人がとらわれています。

「50代は定年間近、そろそろ店じまい」という考え方も少し残念に思います。私にとって50歳はまさに「人生これから」。周りには60代、70代でもバリバリ働く人も珍しくありません。

91歳で亡くなった渋沢栄一は「40、50は洟垂れ小僧、60、70は働き盛り、90になって迎えが来たら、100まで待てと追い返せ」という名言を残しましたが、私もまったく同感です。心と身体が健康でさえあれば、人はいつまでも活躍できるのです。

 

多様性こそがイノベーションの源泉

年齢はむしろ、「知識と経験が増える」というポジティブな変化をもたらします。50代はそれを活かし、これまでにも増して「良きリーダー」になることができます。

ADBでは、リーダーの資質を非常に重視します。マネージャーが受けるリーダーシップ研修は、半年間にも及びます。講義やディスカッションの他、日々の仕事に反映させる実践的なアプローチも組み込まれています。

研修開始時に、半年後に達成したい仕事の目標を立て、終了時には達成の過程や成果をプレゼン。リーダーとしての姿勢や行動を、仕事と直結した形で体得できる仕組みです。

良きリーダーであることは、下にいるメンバーの働きやすさや成長につながり、結果としてパフォーマンスの向上を促します。ADBがリーダーシップを重視する理由は、ここにあると言えるでしょう。研修中は「組織にとって最も大事なのは『人』である」という考え方を繰り返し教わります。

これはADBのみならず、国籍や性別も様々に入り乱れる、国際機関に共通する価値観です。その背景には「多様性がイノベーションの源」だという経験的な知恵があるからです。

ADBに加盟している国と地域は68、前職の国連人口基金の加盟国は190カ国を超えます。多様な国籍・文化・人種が混在する場では、「違い」の接触が絶えずイノベーションを生みだす様子を、私も常に目にしてきました。その瞬間を逃さず、様々な意見を擦り合わせて豊かな発想を引き出す――そこにこそ、リーダーの手腕が発揮されるのです。

さて、読者の皆さんはいかがでしょうか。性別や年齢の違いを前にしたとき、少数者に目を向けてイノベーションを生む働きかけをしているでしょうか。

そして皆さん自身の中に、イノベーティブな姿勢はあるでしょうか。年齢にかかわりなく、年々、新しい挑戦をしているでしょうか。

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