2021年10月07日 公開
頭髪専門クリニックに通う患者に処方するシャンプーとして2001年に開発され、2005年に一般販売が始まった『スカルプD』を主力商品とするアンファー〔株〕。スカルプDはメンズシャンプーでシェア1位を12年連続で獲得しているが(富士経済「化粧品マーケティング要覧2010~2020 No.2」 メンズシャンプー・リンス〈2009年~2020年〉)、同社は新規事業にも積極的に取り組んでいる。創業者の三山熊裕氏に代わって2020年6月に代表取締役社長に就任した叶屋宏一氏に話を聞いた。
――叶屋社長は金融業界の出身で、〔株〕クリムゾンフットボールクラブ(現・楽天ヴィッセル神戸〔株〕)の専務、社長を経て、2017年に役員としてアンファーに入っています。異色の経歴ですね。
【叶屋】アンファーとの関係ができたのは、ヴィッセル神戸でスポンサーを探していたときでした。楽天市場での売上が大きくて、社長がサッカー好きの会社があるということで紹介していただき、スポンサーになっていただきました。
2012年にヴィッセル神戸を辞めたあと、2年ほどイタリアに住んでいたのですが、その間も(当時の三山)社長との関係は続いていて、ECマーケティングのコンサルタント的な立場でアンファーに関わらせていただいていました。
アンファーは2014年に新宿から丸の内のJPタワーにオフィスを移したのですが、立派なオフィスになったにもかかわらず毎月辞めていく社員がいる状況でした。そこで、私がお手伝いをさせていただくことになり、入社したのです。
――会社の風土を整えるために入社したのですね。
【叶屋】明確なオーダーがあったわけではありませんが、私のミッションはそこにあったと思います。ただ、役割としては、2017年に入社してからも、主にECのマーケティングを管轄する役員でした。
――ECのマーケティングについて知見があったのでしょうか?
【叶屋】まったくなかったですね(笑)。でも、ヴィッセル神戸のスポンサーになっていただいている企業に、ECのマーケティングに知見があって、楽天市場での売上が大きい企業が多くあったので、それなりに人脈がありました。そうした企業にアンファーのオフィスに来ていただいて、勉強会を毎月開催したりもしていました。
スカルプDは、商品力はもちろんですが、CMを大きく打って、ブランド力で売上を作っている商品でした。そのため、ECが中心ではありましたが、顧客志向やマーケティングの細かい施策はできていなかったのです。メルマガを1本送るにしても、その内容を精査できていなかった。勉強会に参加した当時のメンバーは、「自分たちは細かい心配りやこだわりが全然できていないな」ということに気がつき、刺激を得たようです。
――会社の風土を整えるという面では、どのようなことをされたのですか?
【叶屋】もともとコミュニケーションが活発で、仲がいい会社だったのですが、仕事になるとタテ社会になってしまい、自由な発言や議論がしにくい雰囲気があったのだと思います。
その鬱屈された課題を積極的に介入して解決することで、現在の風通しのいい社風ができたと考えています。
個人的には人と話をするのが好きな性格なので、社員に声をかけたり、飲みに行ったりしましたね。
アンファーでは私が入る前から部活動が盛んで、会社の運動会もやっていたので、それらに積極的に参加したりもしました。
――外資系金融機関出身ということで、もっとドライな方なのかなとも思っていましたが。
【叶屋】いえ、外資系金融機関もまったくドライではなかったですよ。私がいた当時のメリルリンチ証券はチームワークがあり、協力しながら目標達成を目指していたこともあり、かなり仲がよかったと思います。メリルリンチ証券の同窓会は今でもやっています。
――中間管理職が部下に向き合う姿勢も変わった?
【叶屋】2年ほど前からコーチングを導入して、月に1回、15分でも、1つ下の職位の部下と1on1を実施するようにしました。私も5人に対して実施しています。
――コミュニケーションを活発にするためにフリーアドレスを導入する企業もありますが。
【叶屋】当社も、(三山)オーナーの発案で、3~4年前にフリーアドレスにしました。パソコンも、「デスクトップがいい」という人も多かったのですが、デザイン用のものを除いて、すべてラップトップにしました。
おかげで、他部署の人にも気楽に相談ができるようになり、コミュニケーションをとりやすくなったと思います。
――ちなみに、もともと社長になりたいという気持ちはあったのですか?
【叶屋】ありませんでした。日本では肩書が重視されるのですが、私はそういうのが好きじゃないんですよね。威厳がなさすぎるのはよくないのかなと思うこともあるんですが(笑)。
――経営者としての姿勢を学ばれた経験などは?
【叶屋】(楽天グループ〔株〕会長兼社長の)三木谷(浩史)さんと直接お話をさせていただく機会もありましたし、ヴィッセル神戸のスポンサーになっていただいている企業には創業オーナー経営者も多くて、そうした方々と友人になったりもしました。当社のオーナーも含め、そうした方々から学ぶところは多いですね。
また、それを理論的に裏付けるために、この歳になってビジネス書を読むようになりました。
昨年末には、社員にも気づきを与えるきっかけになればと思い、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(楠木建・山口周共著/宝島社)を課題図書にして、全社員に感想文のレポートを出してもらうこともしました。そのレポートを私が全部読んで、年明けに全社員に返事を書きました。年賀状は廃止したので、その代わりにもなっています。レポートを読むと、各社員が何を考えているのか、よくわかりますね。
更新:11月22日 00:05