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「『スカルプD』だけでなく『医療×プロダクト・サービス』の会社に」アンファー社長 叶屋宏一

2021年10月07日 公開

【経営トップに聞く 第53回】叶屋宏一(アンファー社長)

アンファー

「正確な情報+プロダクト+クリニック」のピラミッドを作る

――2019年に睡眠事業の〔株〕ブレインスリープや女性健診事業の〔株〕ファムメディコを設立するなど、新規事業を積極的に展開しています。

【叶屋】スカルプDは売上も利益も安定して伸びていますし、「アンファー=スカルプD=髪の毛」というイメージは他社との差別化になり、強みでもあるのですが、競争のためには新しいこともやっていかなければなりません。そこで、2019年に会社の理念を再定義しました。それまでは「予防医学」を掲げていたのですが、クリニックがバックグラウンドにある強みを活かして、「医療×プロダクト」「医療×サービス」に変えたのです。

 同時に、若手への権限移譲を進めたいというオーナーの意向もあって、新規事業を行なう会社を、若手を社長にして設立しました。

――「医療×プロダクト・サービス」とは、具体的にはどういうことですか?

【叶屋】3層のピラミッド構造を考えていて、まず基礎となる層として、医師が監修するなどした正確な情報を提供します。そして、その上の層で、必要なプロダクトを提供します。それでは対応できない場合には、さらに上の層として、クリニックをご紹介します。

 例えば髪の毛の事業で言えば、AGAの治療を行なっているDクリニックの医師が監修した情報などを提供し、プロダクトとしてスカルプDを提供する。さらに、解決できなかった人や、医学的なケアを受けたいという方には、関連クリニックのDクリニックをご紹介できる、ということです。

 当社も所属するグループのDクリニックで処方されていたシャンプーを一般販売したものがスカルプDですので、Dクリニックと当社は長く一緒に事業を展開しています。医師に商品を監修してもらっている企業は多いですが、当社ほど医師との距離が近い企業はなかなかないと思います。

 必ずしも大きなピラミッドでなくても、小さくてもいいので、こうしたピラミッド構造を探して事業化していきます。そのために、2021年8月に、社長直轄で新規事業企画部を立ち上げました。

 これまで通りのことをしていては、予算規模では大手に負けるし、スピード感ではD2CやP2Cの中小企業や個人事業主に負けてしまいます。新規事業企画部では、大手が手をつけないニッチな市場(悩み)に対して、よりスピーディーに、クオリティの高い商品・サービスを、ドクターと連携しながら展開していく予定です。

――Dクリニックとの関係を、さらに強化していく?

【叶屋】Dクリニックだけではありません。

 ブレインスリープが行なっている睡眠事業は、スタンフォード大学の西野(精治)先生と偶然知り合ったことから始まりました。日本に正しい睡眠を伝えたいということだったので、一緒に会社を設立し、代表取締役の1人になっていただいて、事業を始めました(同社の代表取締役は西野氏と道端孝助氏の2人)。

 こちらは、睡眠の情報を提供する「SleepediA」というメディアがベースになっていて、自社商品だけでなく他社商品も含めて枕やマットレスなどを販売する「zzzLand(ズーランド)」というECモールを運営し、さらにオンラインで睡眠医療を受け付けるクリニックをご紹介する、というピラミッド構造になっています。来年には睡眠に特化したクリニックをオープンする予定です。

 ファムメディコの場合は、女性に特化した健診を受けられるクリニックが世の中にほとんどないことに課題を感じた当社の女性社員が発案し、すでに当社と関係がある医師の人脈で、しかるべき医師の方をご紹介いただきました。

――ブレインスリープやファムメディコを、アンファーの中の事業部ではなく、独立した企業にしているのは、なぜですか?

【叶屋】そのほうが責任や収支がより明確になりますし、「髪の毛の会社」のイメージがあるアンファーの中でやるよりも、お客様にとってもわかりやすいと思います。

――新規事業単体で収支を合わせるのは難しいのではないかと思いますが?

【叶屋】既存事業を深化させるとともに新規事業を探索する「両利きの経営」が重要だと言われますが、それが私のミッションだと思います。

 そのために重要なのは、やはりコミュニケーションでしょう。しっかりとコミュニケーションをとってヒト・モノ・カネの管理をするのは新規事業も既存事業も同じですが、新規事業の場合は「スピード」や「アクセルを踏むこと」を重要視しつつも、「ブレーキ」をかけるタイミングを指示しますし、既存事業の場合は「守りがち」になるので、時には「攻める」ことを考えるように促します。

 このように事業や商品によって組織に対して求められる能力が違うので、バランスをとった的確な指示が必要です。

 ただ、組織の風土や文化はグループ内で共有しなければなりません。新規事業では中途採用も多いですが、風土や文化に合っていることを確認して採用しています。

――御社は社員の仲がよく、コミュニケーションが活発だということでしたが。

【叶屋】今の時代に合わないのかもしれませんが、プライベートに踏み込んだ話も結構しています。「昨日のサッカーの試合を観た?」「今シーズンのドラマ、何が面白い?」など、趣味の話もよくしていますね。

 最近は「会社は仕事だけをしに行くところ」という、割り切っている社員も多いのでしょうが、そういう方には当社は合わないと思います。

――プライベートに踏み込むことには意味がある?

【叶屋】「信頼関係はコミュニケーションの絶対量」と聞いたことがありますが、小さなことでもお互いに興味を持って、何でも言い合うから信頼関係が生まれるし、信頼関係があるからこそ言えることがあると思います。

「仲がいいから言えない」ということもあるでしょうが、それではダメで、「オフでは仲がいいからオンでは厳しいことも言える」という関係が重要です。

 また、礼儀をとても大事にしているのも、当社の社風です。創業者は「3回お礼を言う」ということを言っています。その日にお礼を言う、翌日にお礼を言う、次に会ったときにお礼を言う、ということです。私も、アンファーに入社して、礼儀にとても厳しいことにびっくりしました。

――新規事業の中で、特に伸びているのは?

【叶屋】ブレインスリープは、2020年5月と2021年5月の単月で比較すると、売上が2000%になっています。

――伸びている要因は?

【叶屋】それだけ睡眠に悩んでいる方が多いということでしょう。

 もともと日本は世界一睡眠時間が短く、近年では24時間社会を背景にさらに睡眠時間が短くなり、6時間未満の睡眠時間の日本人が全人口の4割を占めると報告されています。

 拍車をかけるようにコロナ禍での生活環境の変化によるストレスなどを感じている人も多く、睡眠への関心がより一層高まったのではないかと考えています。

――睡眠事業に進出する企業は増えている印象があります。

【叶屋】寝具メーカーが進出するケースが多いですが、ブレインスリープは寝具の会社ではなく、睡眠の会社です。情報を提供するメディアを運営していたり、クリニックを紹介していたり、単なる監修ではなく、医師と継続的に一緒に取り組んでいたりすることが、寝具の会社との差別化になっていると思います。法人向けに、簡単な問診で睡眠偏差値を測るサービスも提供しています。

――ファムメディコはどうですか?

【叶屋】女性のがん検診の受診率が低いということが、現在、社会課題となっています。

 その理由の1つは、子宮がんや乳がんの検診が、通常の健診に加えて1カ所で受けられる施設が少ないということです。

 ファムメディコがコンサルティングしているクリニック「クレアージュ東京」では、婦人科健診も1カ所ですべてできます。

 1人でも多くの方の課題を解決するためには、女性特有の疾患についてより理解を深めるために、啓蒙していくことも重要です。依頼があれば、企業内でのセミナー開催も実施しています。

――スマートスキャン〔株〕という脳ドックの会社への出資もしていますね。

【叶屋】低価格の脳ドックをネットで予約でき、結果もスマホに送られてくるサービスを提供している会社です。楽天の執行役員までされた方が代表で、ヴィッセル神戸にいたときに付き合いがあり、お話を聞いたときに、予防医学を標榜していたアンファーと目的や目標が同じだったため賛同し、出資に至りました。

 医療ビジネスには、医療法人の立ち上げなど、独特の手順やネットワークが必要なので、その支援をしました。

――その他、今後の展開として考えていることは?

【叶屋】当社が弱かったBtoBの事業を強化していきます。

 例えば、ブレインスリープは睡眠コンサルティングでNTT東日本との協業を始めています。他社との協業は、当社だけでは成しえない新サービス・商品を展開するチャンスでもありますし、アンファーグループの意思をより多くの方にお届けするためにも、今後も必要だと考えています。

 

《写真撮影:まるやゆういち》

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