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高齢者の“転倒予防”も…SIXPADの「顧客体験を起点とした技術開発」

2021年07月28日 公開

THE21編集部

MTG〔株〕 熊崎嘉月
MTGでSIXPADのブランドマネージャーを務める熊崎嘉月氏

日本企業について、「技術はあっても、それを活かし切れていない」「ハードウェア偏重だ」「『良い製品を作ればいい』という発想から抜け出せていない」といった指摘がされることがしばしばある。

確かにそういう企業も少なくないだろうが、一方で、ユーザーに提供する体験価値を実現することを目的に技術開発を行ない、ブランドの構築に成功している企業もある。ここでは、その例として、〔株〕MTGが展開する「SIXPAD」を取り上げたい。

 

ローンチ当初から単品の製品ではなく「トータル」で考えていた

SIXPADは、EMS(Electrical Muscle Stimulation=筋電気刺激)によって筋肉を鍛えるトレーニング・ギアだ。ボクシング世界王者の井上尚弥選手らが着用している広告を目にしたことがある方も多いだろう。

EMSによるトレーニング機器は他にもあるが、SIXPADは京都大学名誉教授・森谷敏夫氏との共同研究によって開発され、科学的なエビデンスに裏づけられていることを特徴としている。筋肉を鍛えるのに最適な周波数の電気刺激を与えると、通常は強い痛みを感じるのだが、その問題を独自の技術開発によって解決した。

それだけでも革新的な製品なのだが、SIXPADブランドでは、他にも多様な製品やサービスを展開している。筋力トレーニングやストレッチなどのためのフィットネス用品もあれば、サプリメントもあり、さらに昨年10月には、自宅でインストラクターの指導を受けながらトレーニングができるサービス「SIXPAD HOME GYM」まで始めた。

「単品の製品ではなく、様々な製品やサービスのトータルでお客様のニーズに応えることは、2015年にSIXPADをローンチした当初から考えていました」と、SIXPADのブランドマネージャー・熊崎嘉月氏は話す。

「当社は『VITAL LIFE 世界中の人々の健康で美しく生き生きとした人生を実現します』という事業ビジョンを掲げています。そして、その実現のために、『HEALTH TECH』『BEAUTY TECH』『HYGIENE TECH』の3つの領域で事業を行なっています。

SIXPADは、HEALTH TECH事業の1つとして、『世界中の人々が健やかに生活できる社会に貢献する』というミッションのもと、展開しているブランドです」(熊崎氏)

このミッションのために、SIXPADは「Fitness・Sports」と「Healthcare・Medical」の2つの領域で製品やサービスを開発し、そのために必要な技術も開発してきた。その全体像はローンチ当初から描かれていたという。

 

「ハイブリッドトレーニング」のための布製電極「Eledyne(エレダイン)」を開発

「Fitness・Sports」の領域でSIXPADのユーザーとなるのは、まず、運動習慣のある人だ。そのユーザーたちは、より効率的にトレーニングをしたいというニーズを持っている。それに応えるために提供しているのが、サプリメントだ。

そして、ダイエットを目的とするユーザーもいる。

「EMSは筋肉を鍛えるものであって、脂肪を燃焼させるものではありません。しかし、ダイエットに効果的だというイメージを持ってSIXPADを購入される方もいます。ですから、そのニーズに応える製品やサービスも提供しています」(熊崎氏)

先述したSIXPAD HOME GYM は、そのためのサービスだ。全身の7部位14カ所に電極を配置した「SIXPAD Powersuit」を着用しながら、筋肉トレーニングをはじめ、バイクやギアを使うトレーニング、ボクササイズやウォーキングをアレンジした有酸素運動を自宅で行なうもので、EMSと有酸素運動を組み合わせた「ハイブリッドトレーニング」ができる。

脂肪の燃焼のためには有酸素運動が効果的だが、EMSを併用することで、より多くのカロリー消費が期待できるという。これについてもエビデンスがあり、研究はSIXPADのローンチ以前から進めてきたそうだ。

「従来のSIXPADは、着用したまま有酸素運動をするのが難しいものでした。肌に触れる電極部分にジェルシートを貼らなければならず、着用したまま有酸素運動をすると、身体の動きを妨げたり、ズレたりしたのです。そこで、SIXPAD Powersuitを開発しました」(熊崎氏)

SIXPAD Powersuitは、電極部分にジェルシートを貼る必要がない。これは、Eledyne(エレダイン)という導電性繊維を使った布製電極によって実現できたことだ。

「ジェルシートを使わない製品として、海外には銀電極を使ったものがありました。我々も当初は銀電極を使おうと開発を進めていたのですが、通電のための水をはじいてしまいますし、錆びてしまうという問題もありました。

また、金属アレルギーの方はご使用できません。当社独自のEledyneを使った布製電極だと、保水できますし、金属アレルギーの問題も解決でき、何度洗濯しても錆びません」(熊崎氏)

ユーザーに提供する体験価値を実現するために技術開発を行なう姿勢が表れていると言えるだろう。

今年6月には、SIXPAD HOME GYMとは別に、Eledyneを使った「Powersuit Lite Abs」と「Powersuit Lite Hip&Leg」も発売された。それぞれ、腹直筋、ヒップと太ももと、部位ごとのトレーニングに特化したトレーニング・ギアだ。

SIXPAD HOME GYMは、SIXPAD Powersuitやバイクの販売をするだけでなく、バイクに取り付けられたタブレットを通してインストラクターの指導を受ける月額プランも用意されている点も特徴的だ。

「お客様に運動を続けていただかなければ、我々のミッションは実現できませんし、お客様に効果を実感していただくこともできません。そこで、SIXPAD HOME GYMには、継続していただくための工夫をしています。ユーザーのジャーニー設計には、かなりこだわりました」(熊崎氏)

例えば、同時に複数のユーザーがトレーニングに参加して、バイクのペダルの回転数と負荷、EMSの強度から算出した「トレーニングゲージ」で競い合ったり、ユーザー同士がフレンドになって互いの獲得トレーニングゲージを確認できたりする機能がある。

また、インストラクターとユーザーとの間に絆が生まれ、ユーザーがインストラクターのファンになることもあるという。SNSの「いいね」ボタンを押すように、ユーザーがインストラクターに「レスポンス」をすることができ、インストラクターがランク付けされるため、お気に入りのインストラクターのランクを上げるためにトレーニングに励むユーザーもいるそうだ。

「インストラクターは原宿のスタジオからライブ配信をしています。コロナ禍が明けたら、この原宿のスタジオを、インストラクターと会える『聖地』にしたいと思っています」(熊崎氏)

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