2021年04月16日 公開
2023年02月21日 更新
上述した通り、現状の設備でMNOサービスを行う楽天モバイルは、ユーザー満足度を下げてしまうリスクを孕んでいるが、それでも「Rakuten UN-LIMIT VI」の“0円プラン”戦法は、通信業界をディスラプトする可能性を秘める。後発である楽天モバイルが何よりも欲しいのは顧客シェアであるため、当面の間はモバイル事業で儲けることを放棄した形なのであろう。
「1GB以下であれば0円」というこのモデルは、「他キャリアと2台持ちでもいいので、まずは手元に置いてください」という戦法と捉えることもできる。楽天経済圏の住民にとりあえずスマホを持ってもらい、楽天モバイルの利便性やお得な価値を徐々に実感していってもらうことを狙っているのではないだろうか。
通信品質を安定して提供することは通信キャリアの重要な責務であるため、整備が追い付くまでは、長年使いなれた他キャリアから楽天モバイルへ移行してもらうのは極めてハードルが高いことだといえる。だからこそ、2台目でもいいのでまずは“持ってもらう”ことを目標とするのは、攻略法として悪くない。
まずはユーザーに選ばれるための土俵に立ち、通信インフラが整ってきた段階で差別化を図ろうという戦略ではなかろうか。
このような腰を据えた戦い方ができるのは、Eコマースと金融を筆頭に十分な収益を上げてきた楽天経済園ならではであろう。
2021年3月に発表された日本郵政との業務提携は大きな話題となったが、これによって日本郵政から1500億円もの額を調達できる。加えて、中国デジタルを牽引するテンセントと、DXで世界的にも注目されるウォルマートからも出資を受けるとのことで、調達額は合計すると2400億円にものぼる。そして、この全てがモバイル事業の投資に充足されるのだが、うち1600億円は4G基地局の整備に使われるという。まずは全力で他キャリアの“現状”に追い付くのが先決ということだろう。
通信インフラが整備されていけば、「楽天モバイル」は楽天経済圏の3つ目のキラーサービスとして君臨することになる。「楽天市場」「楽天カード」「楽天モバイル」の3つの入り口から経済圏に取り込み、この3つを軸としたサービス間の相互シナジーでユーザーを囲い込む。
図6:楽天経済圏の入り口として機能する3大キーサービス
その先に見据えるのが、他社を巻き込んだ経済圏エコシステムの拡張だろう。
例えば、日本郵便と協業することで、「楽天市場」の物流は大きく進化するだろう。郵便局にのぼりの旗を立てれば、「楽天カード」や「楽天モバイル」の加入者は更に増やせるようになるはずだ。
汎用的なプラットフォームとなるまでサービスを拡充してきた楽天経済圏だからこそ、ユーザーを囲い込み、ユーザーの生活に寄り添うことができるようになった。だからこそ、今後他業界も巻き込んだエコシステムへと拡張していけば、多くのリーディングカンパニーまで囲い込んでいくことができるだろう。この巻き込み力こそが、楽天経済圏の強みを表しているといえそうだ。
更新:11月24日 00:05