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迫りくる大経済圏時代 10年以上の歴史を持つ楽天経済圏が見据えるさらなる飛躍

2021年04月16日 公開
2023年02月21日 更新

八木典裕(ベイカレント・コンサルティング チーフエバンジェリスト)

プラットフォーマー成功の鍵は「参入障壁」

 楽天が創り上げてきた経済圏は、他社が真っ向から対立する気にはならないほど、高い参入障壁を誇っている。楽天ポイントを超えるようなサービスを、新たに作り始めようとする企業はほとんど皆無といってもいい。

 そういった意味では、楽天は自ら参入障壁を築き上げているということだが、これこそがプラットフォーマーが勝ち残るための重要な鍵であるのだ。

 そして、参入障壁をさらに高くするためのコツは、金融にもサービスを侵食させ、経済圏内でお金の流れまで掴んでしまうことである。消費者の収入や決済情報といったお金の流れを掴むことができれば、消費者行動の入り口と出口を把握することができるため、サービスの付加価値を進歩させることにつながるからだ。

 そして、経済圏を築き上げようとしている企業のなかで、楽天ほど金融に力をいれてきた企業はいないといえる。楽天経済圏のなかには、楽天銀行、楽天証券、楽天生命、楽天損保など、Fintechを軸としたオンラインに強い金融サービスが揃っており、お互いがシナジーを発揮することでユーザーの囲い込みに効果が出ているのだ。

 例えば、「楽天市場」や「楽天カード」の購入履歴と、「楽天銀行」の口座残高や給料予測のデータを見比べることによって、そのユーザーの返済能力などが浮き彫りになる。残高が少なくなっている時には、リボ払いに変更するような提案までできてしまう。逆に、残高が着実に増えている場合には、「楽天証券」の金融商品をお薦めすることもできるだろう。

 金融関連にも侵食することで、ユーザーよりも先に金回りの状況を察知し、より便利なサービス使いを提案できるのだ。

 また、プラットフォームは、大抵の場合、いきなり汎用的なものを目指してもうまくいかないものであり、最初に始めるサービスは尖った領域から始めることが肝要だといえる。最初はターゲットを絞り込み、圧倒的な価値を提供することで、徐々にシェアを拡大していくのだ。そして、ある程度のシェアを獲得した先は、サービスを拡充していくフェーズへと移行していき、プラットフォームはより汎用的なものへと変化していく。

 これを踏まえて考えると、楽天はまず「楽天市場」や「楽天カード」でシェアを獲得し、少しずつサービスラインナップを拡充してきた。そのうえで汎用的なプラットフォームを創り上げたのが現在の楽天経済圏の姿だ。

 楽天経済圏が築いた参入障壁は、Eコマースやポイントの圧倒的シェアだけではなく、汎用プラットフォーマーとしてユーザーの生活に寄り添えることに、他の追随を許さない真髄があるといえるのだ。

第3のキラーサービス「楽天モバイル」が始動

 そして、楽天経済圏を更に盤石なものとする次なる一手が「楽天モバイル」であるが、まだ契約申し込み数が300万を突破したに過ぎない。

 2020年12月時点、日本の携帯電話・PHS契約数は1億8662万であるため、他の3キャリアとのシェア争いはあまりにも大きな差があることがわかる。

 

図3:楽天モバイルの会員数の推移
楽天経済圏

 

 新参である楽天モバイルは、まだ圧倒的に通信インフラの整備が追い付いておらず、4G基地局数の増加が喫緊の課題となっている。また、4GにあたるLTEの周波数割り当てが限定的であり、電波が屋内にも届きやすい「プラチナバンド」が割り当てられていないことは、他キャリアと争ううえでは正直厳しい状況にあるといえる。

 

図4:移動通信システム用周波数の割り当て状況
楽天経済圏

 

 ただ、楽天モバイルは後発であるがゆえに、他社の後追いをするのではなく、いかにも“ディスラプターらしい戦術”で攻めているというのが印象的である。その顕著な例が、「日本のスマホ料金は高すぎる。」から始まる挑戦的なTVCMであろう。データ利用量が無制限であっても、月額料金がたったの2980円という、業界水準を大きく下回る価格を打ち出した。

 そして、さらに注目すべきなのは、2021年4月1日からスタートした新プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」だ。データ利用料が1GB以下なら、なんと0円。3GBまででも980円(税別)という驚きの安さであり、まるでスマホをばらまくかのような戦略を展開している。

楽天経済圏

 一方で、他の3キャリアが新料金プランで大きく値下げしてくることは予期していなかったのではないだろうか。3キャリアはいずれもデータ利用量に制限があるプランに限られてはいるが、安さを売りにする戦略に陰りが見えてしまうことは否めない。今後どのような戦略で挑んでいくか、楽天の動向から目が離せない。

 なお、通信インフラが追いついていない現状に対して、楽天モバイルへの移行を検討している消費者の心情は、「お得なのは興味があるが、ちゃんと電波はつながるのだろうか」といった不安が大きいであろう。

 ただ現状では、楽天モバイルを使っているユーザーの多くが、意外なほど快適に使えているという感想を口にしている。「電車移動中でも回線が途切れる印象がない」「使い放題なので家の中ではテザリングにも使っている」といった意見が出ており、楽天モバイルに好意的な口コミが広まっている。

 しかし、これには理由があるため注意が必要だ。現在快適に使えている楽天モバイルは、ドコモ回線とau回線を借りているMVNOサービスだからなのであり、楽天の通信インフラが整っていると勘違いしてはならないのだ。そして、圧倒的安さで宣伝している新プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」は、楽天の回線を使用するMNOサービスとなる。つまり、圧倒的な安さと好意的な口コミに誘われて楽天モバイルに切り替えていくユーザーは、“つながりにくさ”を体感してしまう可能性が高いということだ。

 現状はブランディングの効果も出ており、当初計画を上回る勢いで契約申し込み数が増えている。楽天としては“つながりにくい”というマイナスイメージが広がるリスクをおさえるために、4G基地局をどれだけ整備できるかが最重要課題であり、しばらくは全力で投資を続けていくことになるだろう。

 

図5:楽天モバイルの基地局整備計画
楽天経済圏

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