2020年06月22日 公開
2022年08月31日 更新
AI技術の進展はこの社会に、淘汰される恐怖とチャンスへの期待とが交錯する状況を生み出している。チャンスをつかむ側に回るために求められるのは、変化を先読みする「未来予測力」ではないだろうか。
この未来予測力の磨き方について、企業の長期戦略立案のプロであり、先読み力が問われるクイズの世界でも活躍する鈴木貴博氏が、具体的な事例とともにアドバイスする。
※本稿は『THE21』2020年2月号より一部抜粋・編集したものです。
ビジネス全般で未来予測の重要性が高まっています。中でも5年先の長期予測を外してしまうリスクが、企業にとっては最悪です。工場や物流施設の増設、ITの大規模投資、新分野への進出など、企業の存続を左右するレベルの投資の失敗に直結するからです。
一方で、未来予測の前提が突如崩れるサプライズが、常に経営者を襲います。「ここまでのレベルで貿易ルールの変更が断行されるとは」「まさかあのような大型合併が起きるとは」「あんな異業種企業が競争をひっかきまわすようになるとは」。
こういったサプライズは予測できるものなのでしょうか。
私は経営コンサルタントの中でもフューチャリスト、つまり未来予測を専門領域としています。この連載では未来予測の技術を紹介しながら、これから日本社会や経済に起きることを一緒に予測していきたいと思います。
さて今回の話題です。私はかつて勤務したコンサルティングファームで、未来予測の様々な方法論を叩き込まれました。そこで教えられた一番大切な教えは「サプライズは言い訳にはならない」ということです。
「どんな思いもよらない前提条件の変化でも、5年前にさかのぼってみると必ずその変化がおきる兆しを発見できる」と教わりました。
だから「誰にも予想できない変化が起きたのだ」という言い訳は、通用しないのだということです。そして予兆に気づくことができるかどうかは、奇妙な現象を見逃さないことにかかっている。そこに未来予測のテクニックがあると教えられたのです。
具体的な例を挙げてみましょう。これはみなさんがおそらく知っているはずのニュースです。2019年10月に行なわれた参院選の埼玉での補欠選挙で前埼玉県知事の上田清司候補が圧倒的な得票率で当選しました。
強い支持基盤を持つ前知事の出馬で与党が対抗馬を出馬させることをあきらめたため、上田氏の当選は当然といえば当然の結果です。そのため投票率が20.8%と過去4番目に低い水準となったことも話題になりました。
しかしこの選挙では、それほど報道されていないもう一つの奇妙な現象が起きています。本来勝てるはずがないこの選挙に出馬した2位の候補の得票率が、13.6%だったことです。それが「NHKから国民を守る党」の立花孝志候補でした。
「NHKから国民を守る党」は、前回の参議院議員選挙で得票率が3%を超えて初めて政党要件を満たしたばかりの新しい党。そのN国党が埼玉県の東秩父村で8%しか得票できなかったことを除いて、それ以外のすべての市区町村で10%を超える票を獲得したのです。
これをただの奇妙な現象だと見るか、そこに本質的な変化のトレンドがあると見るかによって、未来予測に差が出ます。
この記事を読むまでN国党がそこまでの勢力になっていることに気づかなかった人は、ちょっと頑張ったほうがいいかもしれません。なにしろこういったことに気づかずにサプライズで大きな損失を出した前例があるのですから。
この話を最初に取り上げたのには理由があります。これと同じ現象でもっと世界経済に大きな影響を及ぼしたサプライズの前例を私たちは最近経験しているのです。
それは、米中で保護主義がエスカレートして起きた関税戦争です。
更新:11月22日 00:05