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「知事選でN国党が大健闘」はただの奇妙な現象なのか? 見逃せない“変化の予兆”

2020年06月22日 公開
2022年08月31日 更新

鈴木貴博(経営戦略コンサルタント)

 

トランプ大統領の登場が象徴するものとは?

2016年の大統領選挙でトランプ政権が誕生し、トランプ大統領は公約通りこれまでのルールを破る形で関税を引き上げるとともに、従来の貿易協定も二国間交渉で大きく見直しを行いました。特にターゲットにされたのは中国とメキシコで、そのことから中国も報復的な関税見直しに出ます。

割をくったのはわが国で、アメリカへの輸出品もステンレス鋼などを中心に関税引上げの影響を受けましたし、主力の貿易国である中国からアメリカへの輸出が減少した結果、わが国から中国への工作機械や電子部品などの原材料の輸出にもブレーキがかかります。

日本の大企業で5年間の長期計画を2014~15年頃に作成した会社の場合は、アメリカと中国に対するビジネスの前提があまりに違ってしまい、計画通りに行なった工場建設や設備増強が裏目に出てしまったケースが出ています。

そこで同じ疑問が頭をよぎります。トランプ大統領の出現は予測できなかったのか? と。

そう考えて類似例を探すと、意外とたくさんあることに気づきます。イギリスでは誰も得をしないといわれたEU離脱が国民投票で決議されます。

今のボリス・ジョンソン首相はそのブレグジット推進派の筆頭です。韓国では反日的なメッセージを繰り返す文在寅候補が大統領に当選しました。

 

世界中に満ち溢れるポピュリズムの原点

トランプ大統領が当選するかどうか、16年以前の段階での予測は難しかったかもしれませんが、民衆をあおることで政権をとる政治家の出現がひとつも予測できなかったというのであれば、そこは少し予測能力に問題があるのではないかと考えなければならないほど、世界にはポピュリズムが満ち溢れるようになっています。

では世界にポピュリズムが蔓延するのが奇妙な現象ではなく時代の本質だと捉えたら、その変化はいつ、何が原因で起きたのでしょうか。

私は、08年のリーマンショックが時代の転換点だったと捉えています。

リーマンショック当時、大不況とともに大きな社会問題になったのが資本主義の暴走とアメリカ社会の分断です。本来はウォールストリートの金融機関が暴走してサブプライムローンという実体のない投資証券を買い漁り、その破綻が表面化したのがリーマンショックでした。しかしそれで打撃を受けたのは生活弱者です。

ローンの破綻で自宅を奪われた人だけではありません。リーマンショックが引き金でそれまで勤務していた会社が倒産したり、工場が閉鎖されたりして職を失う人が全米に続出しました。

リーマンショックを総括してみると、金融システムの破綻を恐れた行政の支援によって最終的に給料の高い金融業界での雇用は守られた一方で、かつてない大不況という形で農業、工業といった伝統的な仕事に関わってきた人たちが生活に打撃を受けることになりました。

1%の富裕層が99%の人々から富を奪っている。こういった資本主義の暴走が、この出来事をきっかけにアメリカという社会を分断したのです。

しかしここに大きなパラドックスが発生します。資本主義は99%の国民に不満を強いるのですが、そうなると不満を持つ層が民主主義では多数派になるのです。これがポピュリズム台頭のメカニズムです。

08年当時はまだそれでも「イエス・ウィー・キャン!」と大統領に就任したばかりのオバマ大統領が笑いかけると、国民も何か変えることができるのではないかと感じたわけですが、さすがにオバマ政権が8年続いて何も変わらないことがわかってくると、不満を持つ多数派の国民が力を発揮しはじめます。

16年の大統領選挙の1年前から私が度々「トランプ大統領は本当に出現するかもしれない」という予測を書き始めたのは、このような背景があったからです。そしてこの前提はいまだに変わっていません。

ですから20年に行われるアメリカ大統領選挙では、おおかたの予想を覆してトランプ大統領が再選される可能性は意外と大きいのではないかと私は見ています。一方でその対抗馬となる民主党の大統領候補レースは混迷状態にありますが、おそらく勝ち上がってくる候補も、過激なポピュリズム政策を強調する候補になることは間違いないと思います。

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