THE21 » キャリア » 創業1年強で大阪ガスと業務提携。急伸するスタートアップにその理由を聞く

創業1年強で大阪ガスと業務提携。急伸するスタートアップにその理由を聞く

2019年12月25日 公開
2019年12月25日 更新

江尻祐樹(ビットキーCEO)

常に半歩先を予測して手を打ち続ける

 

 2019年11月、〔株〕ビットキーが大阪ガス〔株〕との業務提携を発表した。ビットキーは2018年8月に創業したばかりのスタートアップ。なぜ、インフラを担う大企業と業務提携を結ぶことができたのか? ビットキーCEOの江尻祐樹氏に聞いた。

 

賃貸不動産管理会社向けにスマートロックを提供

 ――まず、大阪ガスとの業務提携の内容について教えてください。

江尻 大阪ガスと電力の契約をした賃貸不動産管理会社に対して、「bitlock」という当社のスマートロックシリーズや入退室管理などを行なうウェブサービスを、大阪ガスの料金負担で、ご提供するというものです。

 ――集合住宅向けということですか?

江尻 そうです。スマートロックと言えば、各部屋の鍵のサムターンに取り付けるものを想像する方が多いと思いますが、そのタイプの「bitlock LITE」の他、集合玄関のオートロックドアに取り付ける「bitlock GATE」という製品も使っていただけます。

 ――入居者はスマホにbitlockのアプリを入れて鍵を開け閉めするわけですね。

江尻 スマホアプリの他、スマホの電池が切れたときや、スマホを持っていない子供などのために、「bitbutton」という専用デバイスでも開閉できるようにしています。また、スマホを操作しなくても、スマホを持って近づくだけで解錠する設定にもできます。

 ――賃貸不動産管理会社にとって、bitlockを採用することのメリットはなんなのでしょうか?

江尻 便利なので、入居者が決まりやすいことです。誰がカギを開閉したかをアプリで確認できるので、子供の帰宅の確認や高齢者の見守りもできます。

 また、賃貸不動産管理会社が空室を業者に清掃してもらうときなどに、業者に物理的に鍵を渡さなくても、1度だけ使える鍵を送ることもできます。当社のウェブサービスを使えば、1戸ずつ送らなくても、空室になっている部屋の鍵をまとめて送れます。

 その他、入居者のための駆け付けサービスのために使うこともできます。物理的な鍵だと、駆け付けても部屋の中に入れず、鍵を開ける業者を呼ばなければなりませんでしたが、bitlockなら、駆け付けサービスのときに使える鍵を設定することができます。

 ――1度だけ使える鍵を送れる?

江尻 これがbitlockの最大の特長です。「1度だけ」に限らず、使える回数を指定したり、使える時間帯を指定したりした、条件付きの鍵を送れます。我々は「チケット」と呼んでいます。

 当社はスマートロックだけを扱う会社ではなく、ID認証や権利の移転に関する技術を扱う会社なんです。権利の移転というのは、ある権利を持っている人が、その権利を一時的に使いたい人に対して、条件付きで渡すやり取りのことです。bitlockのチケットは、その一つの形です。

 この技術は、医療や自動車などの分野でも使えるのですが、スタートアップが参入するにはハードルが高いので、まずは部屋の鍵から展開しているのです。

 ――チケットを受け取る側もbitlockのアプリが必要なわけですよね。

江尻 そうです。入居者の方も、友人などにチケットを送って、使ってもらうことができます。

 また、2019年7月から、セイノーホールディングス〔株〕の子会社であるココネット〔株〕と業務提携をして、エントランスのオートロックを1度だけ解錠できるチケットを使い、エントランスの内側に「置き配」をするサービスも順次始めています。これも、入居者にとって便利なサービスです。

 その他、既に十数社以上と提携をしていて、一部、チケットを使ったサービス展開を始めている企業もあります。本格的には2020年から始める計画です。

 ――なぜ、大阪ガスは御社と業務提携を結んだのでしょう?

江尻 電力とガスの小売りが自由化されたことで競争が激化しているのですが、電力もガスもコモディティですし、価格を下げるにも限界があるので、大阪ガスとしては、顧客を獲得するために、他の部分で差をつけなければなりません。そこで、「スタイルプランP」という、Amazonプライムの年会費を大阪ガスが負担する個人向けの電気料金プランを作るなどの取組みをしてきました。当社との業務提携も、法人向けの、差別化のための取組みの一つです。

 ――業務提携に至るまでの経緯は、どのようなものだったのでしょうか?

江尻 当社には顧問やアドバイザリーのようなことをしていただいている方々が、スタートアップにしては多くいらっしゃって、その中に、大阪ガスのトップマネジメントの方をご紹介いただいた方がいます。そこで事業の説明をさせていただくと興味を持っていただくことができ、担当の部署の責任者につないでいただいて、一気に話が進みました。

 話が早く進んだ理由の一つは、bitlockが他社のスマートロックよりも圧倒的に安いことです。賃貸不動産管理会社の間でスマートロックの認知度はほぼ100%なのですが、価格がネックになって採用されていないケースが多くありました。他社のスマートロックは数万円しますが、当社のbitlock LITEは法人向けだと月額500円(税別)から(個人向けは月額300円〈税別〉から)で初期費用なし、bitlock GATEも月額2,000円(税別)で初期費用なしです。

 ――賃貸不動産管理会社からの実際の反響はどうですか?

江尻 大阪ガスと一緒に賃貸不動産管理会社向けセミナーを数回開催しているのですが、ご参加いただいた賃貸不動産管理会社の大半から、なんらかの反響をいただいています。

 

次のページ
スタートアップが大企業と提携するポイントとは? >

著者紹介

江尻祐樹(えじり・ゆうき)

〔株〕ビットキー代表取締役CEO

1985年生まれ。大学時代は建築/デザインを専攻。リンクアンドモチベーショングループ、〔株〕ワークスアプリケーションズなどを経て、旧知のエンジニア中心に発足したテクノロジー研究会のメンバーを中心に、2018年に〔株〕ビットキーを創業。

THE21 購入

2024年12月

THE21 2024年12月

発売日:2024年11月06日
価格(税込):780円

関連記事

編集部のおすすめ

人事、薬局、契約……。レガシー業界で戦うスタートアップが、なぜ増えているのか?

宮田昇始(SmartHR代表取締役)×中尾豊(カケハシCEO)×笹原健太(Holmes代表取締役)

【今週の「気になる本」】『スタートアップ・バブル ~愚かな投資家と幼稚な起業家~』

ダン・ライオンズ著/長澤あかね訳/講談社

お菓子のスタートアップとして、業界に新風を吹かせる

長沼真太郎(BAKE代表)