2019年12月05日 公開
ここから惨劇が始まるとは微塵も思えないほどマブシイ序盤
――多くの登場人物が惰性で、劇中劇「壁ドン映画」を撮影していますね。ただ、現実にも仕事である以上は自分の好みではなく「売れる(であろう)作品」を作らなければならないこともあるかと思います。売れる作品とご自身が作りたい作品への折り合いはどうつけていますか。
ヤング ポール 両者は必ずしも分けるべきものではないと、僕は考えています。商業を目的としたプログラムピクチャーにせよ、アートフィルムにせよ、どの作品であっても「自分が楽しめるポイントをどこに見つけるか」「自分がどれだけ作品に気持ちを乗せられるか」という姿勢があれば、納得のいく仕事ができるのではないでしょうか。
例えば、僕は昔の日本のヤクザ映画が大好きです。これは、当時の映画会社が大量に作ったプログラムピクチャーの一つ。商品として作られたとはいえ、高度な表現技術や心を打つストーリー展開で、芸術性の高い作品へと昇華されたものもたくさんあります。
映画の価値は、最初の目的とは違うところに宿る可能性がある。たとえ流行に乗った商品を作ろうといった目的でスタートしても、その過程で映画の作り方や関わり方によって表現が高い作品もできるのです。それほどスキマのない企画や予算が限られていたり、演出の自由もない作品も中にはありますが……。劇中劇の「壁ドン映画」は、あらゆる面で余裕もないスタッフが作品に携わる不幸な例かもしれません。
――プログラムフィルムでクオリティが高くなる瞬間ってどんなときでしょう?
ヤング ポール スタッフが過剰なアクセルを踏み込む瞬間ですね。似たような作品をなぞるように作るのではなく、「自分はこう作りたい」「こういう風に演出したい」「自分の美的感覚ではこう」といった具合に、それぞれの専門領域でこだわりを発揮したとき、プログラムフィルムに神が宿るのかもしれません。
あくまで映画の一部ですが、細部にこそスタッフの人生経験や価値観が表れます。そうしたプロの仕事の集大成によって、一つの作品が出来上がるのが映画の、ひいてはモノヅクリの面白いところです。 『ゴーストマスター』もカメラや音、特殊造形、CGなど、様々な領域のプロの仕事に支えられて出来ています。
――神は細部に宿ると言いますが、我々素人が観ても見逃してしまう「良い仕事」があるかと思います。今回、「この仕事に注目して欲しい」という点があればお伺いできますか。
ヤング ポール 全スタッフ尊敬に値する仕事なのは言うまでもないですが、あえて言うなら「照明」に注目してもらえればと思います。今回、「光」をどう表現するかは重要なモチーフだったので、光の変化によって一つのストーリーが語られています。まさに、作る人たちの哲学が宿っている仕事です。
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更新:11月25日 00:05