2019年10月18日 公開
2020年01月15日 更新
ではなぜ、ゴーン氏の改革は日産では大成功したにもかかわらず、フランスでは効果を発揮しなかったのか。
一番大きいのはやはり、現場力の差であっただろう。経営不振に陥っていたとはいえ、世界トップクラスの現場力を持つ日産に対し、ルノーのそれは非常に脆弱であった。ルノーには得意分野もあったが限定的で、総合的な技術力やオペレーション力は日産にはるかに劣っていた。
また、ルノーの製品は1リッタークラスの大衆モデルが多くを占め、コスト削減余地も少なかった。コスト削減が日産ほど劇的に進まなかったのは、それが理由としてあるだろう。
さらに、国民性の問題もある。フランス人は、個人の多様性や個性を重視する国民性である。こうした価値観はフランスを芸術やファッションにおける先進国に押し上げた要因であり、産業分野においても、CADなどのニッチITや航空分野において強みを発揮している。
だが、数万点の部品からなる自動車のような分野では、個性や多様性よりもチームワークが重要となる。フランス人にはこうした量産工業製品のものづくりは不得手だというのが、世界各地の製造現場を見てきた私の実感である。
それに加えてもう一つ、大きな差があった。それは労使間の関係である。
日本と比べ、フランスの現場の従業員は経営に対してアンチの姿勢を取る人間が多く、ゴーン氏が日産で行ったような自発性に基づく改善活動が定着しにくかったのだ。
欧州は全体的に階級社会色が強いが、フランスは中でもその傾向が強い。少数のエリートが社会の上層部を占め、上下の入れ替えも少ない。ゴーン氏自身、紛れもなくそのエリート層に属する人間だ。
そのため地域差もあるが、社会主義的なラディカルな労働観が根強く残っており、労働組合の力も強い。経営者側と被雇用者側の意識の差は、日本よりもはるかに大きい。
一方、日本の現場には、上から言われなくても自発的に改善をしようという土壌がある。少々前の話だが、ゴーン氏が閉鎖する前の村山工場では、組み立てラインの現場の監督者が、休日に自分の部下を誘って河原でバーベキューをしたりして、職場の雰囲気を少しでもよくしようと努めていたという。奥様も、朝早く起きておむすびなどを用意していたという。こんなことは欧米ではまず考えられないことだ。
非正規の社員の割合が高くなっているとはいえ、やはり日産をはじめ日本の生産現場のモチベーションは、海外と比べ極めて高いのだ。
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更新:11月25日 00:05