2019年10月21日 公開
2020年12月14日 更新
元日産自動車北米副社長。BMWジャパン、クライスラージャパンのトップ。そして早稲田大学ビジネススクール教授という経歴を持つ著者が、自身の経験と国内外の豊富な情報をもとに書き上げた『「名経営者」はどこで間違ったのか ゴーンと日産、20年の光と影』が発売される。
ゴーン氏が先導して開発したのが、日産自動車が誇るEV(電気自動車)「リーフ」である。日産の技術力の粋を集めた名車としての印象が強いが、著者の法木秀雄氏によれば「このリーフこそが、ゴーン氏最大の失敗であった」という。それはどういったことなのか。本書から抜粋・再編集してお伝えする。
すべてをトップダウンで決めていくゴーン氏の意思決定はスピード感にあふれ、それがうまくいったときの効果は非常に大きい。だが逆に、間違った判断をしてしまった際、取り返しのつかない事態に陥る危険性がある。そして2005年以降のゴーン氏は、経営判断におけるいくつものミスを繰り返し、日産の潜在能力をじわじわと落としていってしまった。
中でも特筆すべきが、2010年、世界初の量産型電気自動車(EV)として発売された「リーフ」である。これは、ゴーン氏の商品戦略上での最大の失敗であると筆者は考えている。
そう言うと、意外に思う読者の方もいるかもしれない。リーフ自体は非常に優れた車であり、市場からもおおむね好意的に受け止められていた。この10年ほどの日産車で、最もインパクトがあったことも事実だろう。
だが、こと商品戦略という面においては、ゴーン氏の主導で行われたリーフへの大規模投資は、大きな失敗だと断言せざるを得ないのだ。
2017年以降にフルモデルチェンジやマイナーチェンジをしたにもかかわらず、2019年前半の車名別販売実績は38位と低迷を続けている。
ゴーン氏がEV開発の指示をしたのはおそらく、日産が再建に成功して高収益を上げるようになった2006年前後だったと思われる。
だが当時、日米ともに市場にて最も需要が高まっていたのは、エンジンと電気モーターを併用するハイブリッド車であった。この分野では1997年に量産を開始したプリウスが先行していたが、ニーズの高まりにより各社がハイブリッド車を開発し、市場へ送り込んでいた。
だが、ゴーン氏はそれに見向きもせず、狂ったようにEV開発にのめり込んだのである。
表向きはトヨタがハイブリッドなら、日産はより先進的でクリーンなEVで世界をリードするということだったが、あまりにも無謀な取り組みだったと言わざるを得ない。
そもそもゼロからの開発であるため、リチウムイオン電池の実用化、量産技術の開発、そして実際の工場の建設など、すべてが手探りの中で行われることになった。当然、必要とされる資金も膨大な額に上った。
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更新:11月25日 00:05