2019年09月24日 公開
2023年07月12日 更新
【解説】
アイデアの抽出にあたっては、まずは類似の食品を考えるのが普通に考えやすいアプローチです。まずは関係ありそうだろうがなさそうだろうが、とにかく手当たり次第に組み合わせてみるというのもアナロジー発想をするときの一つのアプローチです。
牛丼、カレー、ポテトチップ、アイスクリーム、おにぎり、おでん、焼肉、カップラーメン、居酒屋のつまみ類……このように様々に「思考実験」をしてみると、やみくもになんでも回転寿司のように「回せばよい」というものでもないということがわかってきます。
それではどういう食べ物がこのスタイルになじむのか、それはなぜか?という「成功要因を抽出する」ことが「ただの思いつき」とアナロジーとの違いです。その「成功要因の抽出」こそ、抽象化に他なりません。これが先にお話しした抽象化とアナロジーとの重要な結びつきです。
でははじめに、どのような特徴をもった食べ物が回転寿司型のスタイルになじむのか考えてみましょう。
回転寿司の特徴として、「少量ずつ小分けになっている」ことがあげられますから、これになじむ食べ物がよさそうです。1皿で満腹になってしまっては回転させる意味がありません。ただ選択することができるだけであれば、わざわざ機械で回転させるまでもないでしょう。
次になぜ小分けになっているとありがたいのかを考えてみます。「いろいろな味を試せる」というのがあるでしょう。それからもう一つは、(寿司ネタのように)「各々の種類に多様性がある」こともあげられます。
では多様性があると何がありがたいのか? それは「人によって好みが異なるから」です。ある人は白身系だけたくさん食べたい、ある人は光物だけたくさん食べたい……という人たちが同時に食事できるのも大きなメリットです。寿司でもセットものではそのようなニーズを満たすことはできません。
もともと寿司屋のカウンターというのはそういうニーズに応えるものではありましたが、さらに回転寿司のありがたいところはそれが極めて安価に経験できることです。つまり元の単価はそれなりに高いが、「機械化」によって安く提供できることも重要な要素です。
さらに、カウンターで注文するスタイルにはなかった回転寿司ならではの「メリット」としては、「意外な出会いがある」こともあげられます。自分で注文するのであれば絶対に注文しなかった、いままで食べたこともないようなネタを、「おいしそうだから」と試してみて意外にはまってしまうという経験は、「自分で注文する」というスタイルでは味わうことはできません。
ここまでの「成功要因」は主に顧客側からの視点でしたが、逆にお店側からするとどういう商品がこのスタイルになじむでしょうか。
もともと回転寿司のアイデアそのものが工場のラインからのアナロジーで生まれたと言われているぐらいですから、「生産設備」としての回転寿司も考えてみましょう。
先述の通り、回転寿司は安価で提供できるものでなければならないので、ある程度は製造が標準化できるものである必要があります。さらに実は回転寿司ならではの特徴として、「受注生産」と「見込み生産」を絶妙のタイミングで組み合わせられることがあげられます。
需要が大きいと想定される(お昼前など)には大量に「見込み生産」で在庫としてのラインに大量に乗せておき、閑散時間帯には「受注生産」で対応させることができるというのは、「賞味期限が短い」(つまり在庫リスクが大きい)寿司には絶好のスタイルと言えます。
このように回転寿司は「受益者側(顧客)」からも「提供者側(お店)」からも成功要因を巧妙に満たしており、それが回転寿司がここまで広く普及した要因と言えます。
更新:11月22日 00:05