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YOSHI×菅田将暉×仲野太賀『タロウのバカ』の大森立嗣監督に聞く

2019年08月24日 公開
2022年01月31日 更新

大森立嗣(映画監督)

「人間そのもの」の存在を肯定したい

――そうした「身体感覚」を、我々現代人は忘れがちです。

大森 一番、忘れがちなのは「死ぬこと」ですね。「死」はわからないものの代表格ですから、排除してしまいます。経済を豊かにすることに躍起になり、享楽的に生きるうちに忘れてしまう。

 ただ、「死」と向き合って生きなければ、生物としてまっとうじゃない気がします。人間は生き物であるという前提があるのに、死を忘れようとすると、どこかバランスが狂ってしまうようで。

――劇中では、死を暗示する拳銃が効果的に使われていますね。

大森 「死」は、社会性を取り払って、人間の「存在そのもの」を剥き出しにしますからね。『タロウのバカ』では、人間の存在そのものに触れたいと考えていました。

――『タロウのバカ』に出てくる登場人物は、社会的にぶっ壊れたキャラクターとして描かれています。ただ、本能的に生きているぶん、実はこの人たちのほうが生き物としてまともなのではないか? と思わないこともありません。

大森 少なからず、そう思わせる意図はありました。特に、善悪の概念がなくモラルもないタロウには、剥き出しの野生が持つ、生き物としての美しさがあります。

 ただ、どの国にも法律はあって、社会契約があります。そうした制度がある以上、社会という枠組みから見れば、彼らは完全にアウトです。全員、社会的に意味のない存在と見做されてしまいます。

 でも、彼らにあえてスポットを当てることで、人間そのものの存在を認めたいと思った。存在そのものを肯定されたのなら、人は生きやすくなるのではないかと思ったからです。

「○○大学を出ました」「今、こういう会社に勤めています」。こうした社会的信用を一切取り払って、存在そのものを肯定してあげたら、人はどれだけラクに生きられるようになるか――。

――承認欲求がここまで注目されるようになった今の世の中を考えると、現代人が抱える生きづらさにも通じる気がします。

大森 本当の豊かさを考えたら、「お金だけじゃないでしょ。次に考えなきゃいけないこともあるんじゃないの?」と。社会が成熟して豊かになるには、その辺りが大切になってくるのではないでしょうか。

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著者紹介

大森立嗣(おおもり・たつし)

映画監督

1970年、東京都出身。大学時代にな言った映画サークルをきっかけに自主映画を作り始め、卒業後は俳優として活動しながら新井晴彦、阪本順治、井筒和幸らの現場に助監督として参加。2005年『ゲルマニウムの夜』で監督デビュー。第59回ロカルノ国際映画祭コンペティション部門、第18回東京国際映画祭コンペティション部門など多くの映画祭に正式出品され、国内外で高い評価を受ける。13年に公開された『さよなら渓谷』では、第35回モスクワ国際映画祭コンペティション部門にて日本映画として48年ぶりとなる審査員特別賞を受賞するという快挙を成し遂げる。その他の作品に『セトウツミ』(16)、『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』などがある。

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