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YOSHI×菅田将暉×仲野太賀『タロウのバカ』の大森立嗣監督に聞く

2019年08月24日 公開
2022年01月31日 更新

大森立嗣(映画監督)

現場の感覚で論理の枠を超えていく

――大森監督ご自身は、「わからないもの」と出会ったとき、どう反応するのでしょう。

大森 「わからないものに対して、どうやって向かっていくか」を考えます。僕は自分とまったく噛み合わない人と出会うほうが嬉しい。どうやったら付き合えるのか、どう向き合うのか。思いもよらなかった考えに直面したときに、自分がどう受け止めるのかを知りたい。

 これでいくと、タロウはわからないものの筆頭です。僕たちみたいに法律や道徳を重んじる一般人にとっては「扱えないもの」に他ならないでしょう。

――確かに、タロウは得体が知れなくて、見ていてゾッとしました。ただ、監督自身が生み出したキャラクターでも、わからないということはあるんですね。

大森 僕自身、方程式で答えを出すような脚本を書きたくないという気持ちがあります。一般的に、脚本には箱書きというプロットがあって、終わりをイメージして書くのですが、その方法はある時にやめてしまいました。飽きちゃって。

 キャラクターが「何を言いたいのか」「次にどこに行きたいのか」は流れに任せる。自分自身も結果がどうなるかわからずに、脚本を書き始めます。

――それは、役者さんへの演技指導も同じですか?

大森 そうですね。脚本と同じで、俳優がどうしたいのかを重視しています。俳優の動き、セリフのタイミング、身体の向き、言い方……、ほとんど指示しません。むしろ自由。

 とはいっても、自分の頭の中で、イメージやプランは構築しておきますよ。でも、あえて口にはしません。役者さんがやりたいようにやらせてみる。答えがわかっているものに対しては、合理的な作り方ができるけど、生産性に疑問を投げかける自分がそれをやるというのもね。

――「わからないもの」をそのままにしておくのは怖いと思うのですが、大森監督は怖くないのですか?

大森 むしろ、楽しいですね。まとめるときはまとめますよ。スタッフは、指示しなきゃどう動いていいかわかりませんから。でも、シナリオにない意外なことやバカげたことが起こるほうが面白いでしょう。 

――「THE映画監督」的なイメージとかけ離れていますね。

大森 もちろん、スタッフには、カット割りやシーンの繋がりを気にしなければならないので、ある程度の論理性は必要です。でも、俳優さんには、現場に理屈や論理を持ちこまないでほしい。というより、僕の想像や論理の枠を超えた何かを生み出してほしい。

 理屈じゃなくて、その場で感じるもの。そういう現場の肌感覚を大切にしたいと考えています。

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「人間そのもの」の存在を肯定したい >

著者紹介

大森立嗣(おおもり・たつし)

映画監督

1970年、東京都出身。大学時代にな言った映画サークルをきっかけに自主映画を作り始め、卒業後は俳優として活動しながら新井晴彦、阪本順治、井筒和幸らの現場に助監督として参加。2005年『ゲルマニウムの夜』で監督デビュー。第59回ロカルノ国際映画祭コンペティション部門、第18回東京国際映画祭コンペティション部門など多くの映画祭に正式出品され、国内外で高い評価を受ける。13年に公開された『さよなら渓谷』では、第35回モスクワ国際映画祭コンペティション部門にて日本映画として48年ぶりとなる審査員特別賞を受賞するという快挙を成し遂げる。その他の作品に『セトウツミ』(16)、『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』などがある。

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