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1人の「妄想」から始まる「ビジョン思考」こそが、これから企業を勝たせる

2019年06月21日 公開
2023年03月02日 更新

佐宗邦威(BIOTOPE CEO)

 

21世紀型企業ではビジョンの発信が不可欠に

 ビジョンのもとにユーザーが集まり、企業とユーザーが新しいサービスを共創し続ける、21世紀型の企業の典型例としては、グーグルが挙げられるでしょう。

 情報革命によって生まれたIT企業には21世紀型の企業が多いですが、これからはクルマなどの製造業をはじめ、ほとんどの企業が、20世紀型と21世紀型のハイブリッドの組織になると思います。

 特に、1980年代以降に生まれた、インターネットネイティブのミレニアル世代と呼ばれる人たちは、ビジョンに共感する企業のサービスでなければ利用したくないし、モノも買いたくない、データも提供したくない、という傾向が強い。

 IoTが普及すれば、ユーザーと接点を持つあらゆる企業がユーザーのデータを必要としますから、ビジョンへの共感が欠かせません。ユーザーの共感を得るビジョンを発信できない企業は、ユーザーの世代交代とともに、生き残れなくなっていくでしょう。

 世界では2020年に労働人口の3割以上をミレニアル世代が占め、日本でも25年には5割を占めると予測されています。

 日本は、高齢者が多く、若い世代が少ないため、21世紀型の企業への転換が遅くなるのではないかと、私は危惧しています。日本が海外と戦っていくうえでも、ビジョン思考ができる人材を早く増やすことが急務です。

 

プレステやアイボは一人の妄想から生まれた!?

 では、ビジョン思考とは、どういうものなのか。

 カイゼン思考や戦略思考と大きく違うのは、新たな価値を創造する点です。新たな価値だからこそ、共感を生み、求心力を持つのです。

 カイゼン思考や戦略思考が1を無限大にする思考法なのに対して、ビジョン思考は0から1を生み出す思考法です。

 ただ、0から1を生み出す思考法という点では、デザイン思考も同じです。

 デザイン思考は、日本でも広く注目されるようになっています。私が関わった例で言えば、クックパッドのようなIT企業のみならず、山本山のような老舗企業までが、新しい商品やサービスを作り続けなければ生き残れないという危機感から、デザイン思考を取り入れています。

 デザイン思考は、ユーザーが抱えている課題を、企画やマーケティング、デザイン、技術など、様々な部署の人たちを巻き込みながら解決する思考法です。時にはユーザーを巻き込むこともあります。

 これは優れた点でもあるのですが、半面、欠点でもあります。ユーザーの課題からスタートするので、商品やサービスが持つ意義、つまり、ビジョンがチームに共有されないことが往々にしてあるのです。そのため、せっかく出てきたアイデアなのに、コストなどのちょっとした問題のために、実現を諦められてしまうことが多い。

 そこで必要なのが、ビジョン思考です。

 私はソニーに在籍していたこともありますが、プレイステーションやアイボなど、実現したイノベーションの例を見ると、その商品の意義を信じている一人の狂信的なエンジニアが開発した、「人生芸術」の作品と呼べるものです。戦略から生まれたのでもなく、また、集団から生まれたのでもなく、一人の妄想から生まれているのです。

 妄想をもとに生きる狂信的なイノベーターなくして、デザイン思考には意味がないと、私は強く感じています。

 この妄想こそが、ビジョン思考の起点です。一人の妄想が共感を生むと、ビジョンになるのです。

 

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著者紹介

佐宗邦威(さそう・くにたけ)

〔株〕BIOTOPE代表取締役CEO/チーフ・ストラテジック・デザイナー

大学院大学至善館准教授。京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン〔株〕(P&Gジャパン)マーケティング部で『ファブリーズ』『レノア』などのヒット商品を担当後、『ジレット』のブランドマネージャーを務める。その後、ソニー〔株〕に入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインプラットフォーム「BIOTOPE」を起業。著書に『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)、『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)がある。

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