2018年07月26日 公開
2022年12月08日 更新
ビジネススクールで教鞭を執るなど、社会人教育に携わる三谷宏治氏は、「ビジネススクールの受講生も、昨今は40代以上の人が増えている」と話す。しかし、せっかく学んでもその内容を仕事に活かせなくては意味がない。具体的に何をどう学べば仕事に役立つのだろうか。三谷氏は、まず学ぶべき2つのことがあると言う。詳しくうかがった。(取材・構成=前田はるみ、写真撮影=まるやゆういち)
ビジネススクールといえば、かつては二十代や三十代の受講生が中心だったが、最近は40代以上の人も増えているという。「人生百年時代を迎え、定年後の20年をよりよく生きるため、あるいは不透明な将来への不安から、学び直す人が増えている」と話すのは、長年、社会人教育に携わってきた三谷宏治氏である。
「明確なキャリアビジョンのもと、勉強に取り組む欧米人とは違い、漠然とした将来への不安や危機感から学び直す人が多いのが、日本人の特徴です。ただ私はそれが悪いこととは思いません。ビジョンに縛られないぶん、深い思索や柔軟性につながるからです。
これまで日本では、キャリアビジョンがなくても会社員として生きてこられましたし、逆にそれがあったとしても、実現しにくい社会だったでしょう。しかし、今はいつ何時、会社がなくなったり、転職の必要性に迫られるかわかりません。今の勤め先の外でも活躍できる自分になっておくために、中堅会社員にこそ学び直しが必要なのです」
では、今後の仕事や人生をよりよくするために、何を学べばよいのだろうか。ビジョン実現に向けた英語力向上や資格取得など、明確な条件がある人は、それを勉強すればいいだろう。一方、具体的なキャリアビジョンがなくても、学んでおいて損はないビジネススキルがあるという。三谷氏がまず挙げたのは、「論理思考」だ。
「私がビジネスに役立つと考える論理的思考法は、『大事(だいじ)な一つを決める力』です。商品開発の場面なら、『この商品の一番のターゲットは誰か』『ターゲットにとって一番大事なことは何か』『そのために自分たちができる最善策は何か』を決めることです。『重要思考』と名づけました。ところが、大抵の思考や議論はそうなっていません。目的もターゲットも曖昧ですし、こんなこともある、こっちも大切、という散文的なコメントだらけの議論ばかり。
論理思考に関しては、数多くの本が出版され、ビジネススクールでも人気の講座です。しかしそれは、多くの人が論理思考を重要視しているにもかかわらず、実践できていないことの表われなのです」
三谷氏によると、論理思考は日本のビジネススクールに特有の科目だという。欧米では誰もが当たり前に身につけているスキルであり、社会人大学院でわざわざ学ぶ必要がないものなのだ。
「たとえば、アメリカでは子供がお小遣いを上げてほしいと思えば、自分なりの根拠を挙げて親と交渉しなければなりません。大学では教員とマンツーマンで議論する機会も多い。家庭でも学校でも、論理思考や議論が鍛えられます。
一方、日本にはそのような環境はありません。それどころか、職場で人気の『報連相』は、上司が部下に対して『自分で決めるな』と言っているようなもの。日本人には普段から論理的に考える機会や習慣がないからこそ、改めて学ぶ必要があるのです」
更新:11月22日 00:05