2019年05月07日 公開
さまざまな製品で世界トップシェアを誇る化学メーカー「クラレ」。その礎を築き、松下幸之助に「美しい経済人」と評された稀代の経営者・大原總一郎をモデルにした小説『百年先が見えた男』が、この5月に発刊される。発刊を前に、著者の江上剛氏と、クラレ代表取締役社長・伊藤正明氏との対談が行われた。
(取材・構成:杉山直隆 写真撮影:遠藤宏)
江上 国産第一号の合成繊維「ビニロン」の事業化を実現させるだけでなく、国家を動かして、国交回復前の中国にビニロンプラントを輸出することも成し遂げた、稀代の名経営者。クラレを創り上げた大原總一郎(おおはらそういちろう)の半生を描いた作品が、本作です。
本作を描くことになったきっかけは、JAXAで人工衛星の取材をしたときに、人工衛星の保護フィルムを留めるのに「マジックテープ」が使われているのを見たことでした。ギザギザの面同士を貼り合わせる、財布や靴などでよく見かけるテープがこんなところでも使われているのか、と驚き、記事に書いたところ、伊藤文大さん(クラレ前社長)に「マジックテープはクラレの登録商標です」というご連絡をいただいたことから、クラレに強く興味を持ちました。
普段何気なく使っているけれども、実はクラレの製品というものは、マジックテープに限らず、たくさんありますね。
伊藤 ありがとうございます。最も有名なのは、ランドセルで使われている人工皮革の「クラリーノ」だと思いますが、実は、フードコートやファストフード店でよく見かける、ピンクやグリーンのチェック柄が入ったメッシュのふきん、「カウンタークロス」もクラレの製品です。
江上 液晶テレビやスマートフォンの画面に使われている光学用のポバールフィルムも、クラレがつくっているんですよね。
伊藤 はい。このフィルムに関しては、当社が世界で約80%のシェアを握っています。
その他にも、数多くの製品で国内外のトップシェアを持っています。ビニロンは今も世界で100%のシェアですし(中国を除く)、カツオ節のパックや自動車のガソリンタンクで使われている「エバール」という樹脂も、世界65%のシェアです。また、国内ではマジックテープや歯科用接着材が、それぞれトップシェアを占めています。
更新:11月25日 00:05