イライラや不機嫌など、怒りのオーラを振りまき、職場の空気を悪くする困った上司や社員。あなたの身の周りにもいないだろうか。怒りを予防し、制御する「アンガーマネジメント」は日本でも注目されるようになったが、「怒り」という人間の根源的な感情に真正面から向き合ったのは心理学の歴史からすると比較的最近のことだという。
名越氏によると〝怒りの感染力〟は絶大。一瞬にしてその場の雰囲気をネガティブな方向に支配してしまうほどの破壊力を持つという。
「ツイッターなどのSNSを見ていると、世の中への批判や不満、告発など、怒りに満ちたツイートほどリツイートされる数が多いのがわかります。文脈に関係なく、冷静な理論より、怒っている人、感情的な人のほうが、強い感染力を持つのです」
さらに、日本人の特性として、所属する集団の雰囲気に染まりやすい傾向があることを名越氏は指摘する。
「日本ではどんな集団もムラ社会化しやすい傾向にあります。つまり、職場の醸し出すカラーに染まりやすいんですね。欧米人だと個が主体だから、職場がどうであろうと、自分のカラーを主張できます。これは一長一短で、染まりやすいからこそ日本人は団結力を発揮できるのです。
しかし、怒りにまみれた上司や社員が影響力を持つと、怒りや恐怖など、負のエネルギーが職場全体を支配することになってしまう。こうなると人間は能力を発揮できません。できるだけ避けたい状態ですよね」
場の雰囲気を悪くする負のエネルギーを持つ「怒り」。仏教では2500年前から怒りは心身を傷つけ、病をもたらす毒物だとして諌めてきた。そもそも人はなぜ、怒りの感情を抑えきれずに暴発させてしまうのか。
「怒りは、人間が最初に覚えるコミュニケーション法なのです。赤ちゃんがオギャーと泣く。それは悲しみではなく、怒りです。お腹が減ったぞ! オムツを替えろ! と不快を感じるたびに母親に訴え、母親は慌てて不快を取り除く。これはコミュニケーション手段を他に持たない赤ちゃんの生きるための手段ですが、同時に怒ることによって、不快を快に変えるというメカニズムを学びます。
さらに言うならば、『怒りで相手を動かす』『怒ることで自分の不快を解消する』ことを身につけるのです。しかし、成長して言葉を覚え、知恵をつけると、怒らずとも人を動かし、協力して不快を解決させる方法を社会的に学んでいきます。ただ根っこの部分では、怒りで人を動かすコミュニケーションが刷り込まれているので、自分の思い通りに相手が動いてくれなかったとき、それが表出してしまうことがある。
これは〝赤ちゃん返り〟している退行現象です。子供じみた恥ずかしい行動なのですが、私も含め、誰しも起こし得る原始的な心の動きなのです」
更新:11月23日 00:05