2019年03月08日 公開
2023年03月10日 更新
多様な人々がそれぞれ能力を発揮できる場を作るには、管理職が各人の価値観や希望をくみ取らならなくてはならない。
「よく『出産後の女性に負担をかけてはいけない』と気を配ったつもりが、本人はバリバリ働く予定だった、というすれ違いがあります。『ひとくくり』が招く失敗の典型ですが、復帰時に本人の希望を聞けば避けられたはず。本人の希望に合わせて業務を振り、あとはそれがうまく行っているかどうか随時観察する。『気配り』ではなくて『目配り』をすればいいのです」
それを全員の部下に対して行なうのは面倒だが、その面倒をすることが管理職に必要な覚悟なのだという。
「ポジションや属性を問わず、人間同士として向き合うことが大事。この姿勢を持てるかどうかは、自分が今のポジションに胡坐をかいているか否かと、深く関わってきます」
目上であることを笠に着て、相手を軽んじるような人物を河合氏は「ジジイ」と呼ぶ。
「他者への関心や敬意を失い、役職などの外的リソースにしがみつくのが特徴です。社員をコストや駒としてみなす価値観もここから生まれます。
男性に限らず、女性もジジイになりえます。ちなみに『中年の会社員は働かない』と決めつける若者も、私に言わせればジジイですね」
年齢を重ねること自体は、むしろ自由さや柔軟さの源泉だと河合氏は考える。
「40~50代の持つ視野は20代とは比べ物になりません。若者と違い、数々の修羅場をくぐり抜けてきたおじさんたちの世界は豊かで、可能性に満ちています。にもかかわらず、役職など目先の損得にとらわれてジジイになるのは、もったいない」
ジジイにならないためには、謙虚さを持ち続けることが不可欠だという。
「多忙な中、つい部下にぞんざいな口の利き方をしたりすることがありますね。そんなときはすぐフォローを入れるなど軌道修正を。ぞんざいな態度をとった自分に気づける限り、ジジイにはなりません。
また、目の前のことをきちんとすることも大事。自分の仕事をしながら部下一人ひとりに目配りする習慣を地道に続けましょう」
一方、ジジイと対置される存在として河合氏が挙げるのは「オバチャン」だ。
「近年『人が大切にされている会社』は、地方や郊外の中小企業に増えていると思います。そういう職場には、例外なく元気なオバチャン社員がいます。パートさんや非正規雇用など立場はさまざまですが、スキルは熟達していて、人柄も明るく、頼れる存在であることが共通しています。そうした女性たちを中心に、社員全体が高いモチベーションを発揮しているのです」
おせっかいで話し好きがオバチャンの特徴だ。
「近年流行りの『効率性』を彼女たちは気にしません。無駄話もしますし、遠慮なく相手のプライベートについて質問します。それが許されるのは『人徳』と言ってしまえばそれまでですが、何より大きいのは、立場で人を判断しないことでしょう。上下関係にさほど興味がないため、どのようなポジションの人とも分け隔てなく話せるのです」
オバチャンもジジイと同じく、性別や年齢に関わらず、誰もがなれるキャラクターだ。
「人が大切にされる会社の経営者は『オバチャンキャラ』であることが多いですね。カッコつけず、人との間に垣根を設けず、威厳はあるけれど偉ぶらない。
男性だから女性だから、新人だからベテランだからではなく、皆に対して『一人の社会人』として接するので、社員たちに慕われます。
そんなリーダーのもとで豊かなつながりが生まれ、皆が生き生きと働けるようになります。有機的なコミュニケーションを充実させることが、結局のところ、働き方改革への一番の近道ではないでしょうか」
自分はオバチャンキャラとは程遠い、と言う人も悲観することはない。人同士のつながりは、ごく小さなことから構築していくことができるからだ。
「その方法を、私たちはすでに幼稚園で学んでいます。『悪い事したら謝ろう』『親切にされたらお礼を言おう』『挨拶をしよう』と皆習ったはず。大人になると、なぜか忘れてしまうのは不思議ですね。数十年時計を巻き戻して、あの習慣を実践しましょう」
手始めに、職場での「おはようございます」「行ってらっしゃい」や「お帰りなさい」「お疲れ様です」を徹底すると良い。
「周囲の同僚はもちろん、顔と名前が一致しない他部署の人、顔も名前も知らないエレベーターの同乗者、業者さんに至るまで、皆に挨拶をしましょう。その際は『心を入れない』のがコツです。
『あの人は嫌いだから挨拶したくない』『あの人、挨拶を返してこなくて不愉快』などと思わずに済みますから。淡々と粛々と、筋トレだと思って続けましょう」
筋トレと同じく、挨拶も継続すれば必ず変化が現れるという。
「1カ月もすれば、周囲の空気が変わったのを実感できるはず。帰ってくる挨拶に笑顔が添えられているのも感じるでしょう。知り合いが増えて、頼み事もしやすくなるかもしれません。
この小さな習慣は、組織のありようを変える可能性も秘めた、大きな第一歩なのです」
『THE21』2019年4月号より
更新:11月25日 00:05