2019年03月13日 公開
2023年03月10日 更新
また別の角度から市場を分類してみると、感性や好みが求められる理由に、さらに納得がいくだろう。
「確かに、世の中には『使えればいい』『安ければいい』という人たちもいます。しかし、そうした人たちを対象にした市場では、最終的に勝つのは最も価格が低い1社だけです。
一方で、『便利さや価格より、意味が重要』という市場もあります。先ほどのモレスキンのように、他のノートの10倍の値段を払っても、『私にとって、モレスキンのノートを使うことに意味がある』と思う人たちが集まるのが、こちらの市場です。
この市場では、商品が多様化します。『役に立てばいい』『安ければいい』という市場で最後に残るのは一番価格が低い商品だけですが、何に意味を見出すかは人それぞれだからです。
例えば、コンビニに行くとハサミは1種類しか売っていませんが、タバコは100種類以上あります。ハサミは『ちゃんと切れて、一番安いもの』が一つあれば十分ですが、タバコは人によって味や香りの好みが千差万別なので、商品が多様化する。そして、多様な商品の一つひとつに需要があり、それぞれが市場の中で生きていけるのです」
そして山口氏は、こんな問いを投げかける。
「皆さんには、自分はこの二つの市場のどちらで戦っていくつもりなのかを、ぜひ考えていただきたいと思います。
何千もの会社が安さだけで競い合い、1社だけしか生き残れない世界と、『自分はこれがいいと思う』という想いを世の中に出して、共感してくれるファンと一緒にビジネスを作っていく世界との、どちらで生きるのが、あなたにとって幸福でしょうか。
自分の直感や感性を表に出すのは、勇気が要ります。『自分はこれがいいと思う』と言ったものが否定されたら、誰だって傷つきます。
しかし、勇気を出して自分の感性や好みを表現し、誰かが『いいね!』と共感してくれたら、その相手とは非常に質の高い関係性を構築できる。共感してファンになってくれた人は、価格が高くても買ってくれるし、長く愛用してくれます。
ですから皆さんも、常に『自分は何にワクワクするか』『どんなことができたら痛快だと思うか』を自分に問いかけてください。そして、『本当に自分がいいと思うことは何か』を考え、それを表に出す勇気を持ってもらいたいと思います」
《取材・構成:塚田有香 写真撮影:まるやゆういち》
《『THE21』2019年3月号より》
更新:11月23日 00:05