2018年11月09日 公開
2018年11月09日 更新
キリンビールで順風満帆なサラリーマン生活を送っていた湯澤剛氏。ところが、突然の父親の死によって、40億円もの負債を抱える飲食店グループを引き継ぐことになった。銀行からは返済に80年かかると言われたが、苦境の中で経営再建を成功させ、16年でほぼ完済を果たした。その裏には、どんなメンタルコントロール法があったのだろうか。
湯澤氏が引き継いだ当初の会社には、国税、地方税、仕入れ代金、水道光熱費、家賃など、各所からの督促状が段ボール箱いっぱいに届き、督促の電話もひっきりなしの状態だった。それらに対して、支払えるあてもないのに、「必ず支払います」と答える日々。社員のモラルも崩壊し、まだ営業時間中なのに閉店して、お客と並んで酒を飲んでいる板前や、店舗の上階で麻雀に興じる板前もいた。
1年ほどが経ったある日、仕入れ先に支払いの相談に行った帰り、地下鉄のホームで、その気もないのに、無意識のうちに身体が線路に飛び出そうとしていたこともあったという。
「そんな経験をして、『これで底まで落ちた。これ以上事態が悪くなることはないな』と感じたんです。すると、覚悟が定まりました。
私は、ちょっとしたことでもすぐに動揺する小心者です。ですから、莫大な借金を抱えて、ものすごく強い恐怖感がありました。その恐怖感を受け止めたうえで、エネルギーに変えられるようになったのです」
まずしたことは、最悪の事態を紙に書き出すことだった。
「最悪の事態は、破産することです。そこで、『破産計画』を立てました。
『破産処理にかかる費用をどうするか』『取引業者の連鎖倒産をどう防ぐか』『自己破産後はどこに住んで、どうやって収入を得るか』といったことを書き出してみると、『要するに、ただ破産するだけなんだな』と思えて、気持ちが落ち着きました。
ストレスやプレッシャーが強くかかると、視野が狭くなって、実際以上に問題が大きく思えてしまうんですね。紙に書き出すと、問題の大きさを客観的に捉えることができます。
『言葉は実現するから、悪いことは言葉にしないし、考えることもしない』という人もいますが、それでは仕事はうまくいかないでしょう。
その後、店舗を新しいコンセプトにリニューアルし、失敗してもまたリニューアルするというチャレンジができたのも、『破産計画』を立てていたからです。気持ちのうえでのセーフティネットとして機能したのです。
それに、最悪の事態が頭の中にあると、そちらに気を取られて悩んでしまいます。紙に書き出すことには、頭の外に出して、いったん置いておくという効果もあります」
もう一つ、期間も定めた。5年間は、何があっても目の前のことに集中すると決めたのだ。
「5年間という長さに、特に根拠があったわけではありません。しかし、期限を定めなければ、途中で心が折れてしまいます。毎日、日めくりカレンダーをめくって、『あと○日、頑張ろう』と思っていたからこそ、諦めずに続けられました。
人は、成果が出ないと、自分がやっていることが本当に正しいのか迷いが生じて、諦めてしまうものです。しかし、成果というものは、ある閾値を超えなければ表れません。そして、閾値がどこにあるのかは、超えてみなければわからない。閾値を超える前に諦めてしまわないためにも、頑張る期間を決めて、その間は結果よりもプロセスに集中することが必要です。
今も、ある大きなプロジェクトを進めているのですが、期間を定めて、毎日、日めくりカレンダーをめくっています」
更新:11月24日 00:05