2018年10月11日 公開
2021年08月23日 更新
たった4、5年前まで倒産寸前だったメガネスーパーを見事V字回復させ、注目を集めるプロ経営者、星﨑尚彦氏。8年連続赤字で疲弊しきった社員たちを鼓舞し、負けグセのついた会社を丸ごと変えてしまったその方法とは? 初の著書となる『0秒経営』(KADOKAWA)で語られた星﨑氏の過去に、そのヒントがあった。
私はいわゆる「プロ経営者」、再生請負人だ。これまで複数の会社を渡り歩き、経営再建を手がけてきた。しかし、今社長を務めているメガネスーパーが扱うメガネについては、ここに来るまでかけたことすらなかった。堂々たる門外漢である。
そういう人間がなぜ、メガネスーパーの社長の座にすわる羽目になったのか。なぜ、8年連続の赤字から、3期連続の黒字を達成するまでにV字回復できたのか。その要は、「専門性などよりも、社長は経済合理性を極めよ」ということだ。
私は大学を卒業すると、三井物産で10年間、働いた。今でも「3回生まれ変われるなら、一度ぐらいは三井物産を勤め上げてみたい」と思うほど愛着がある会社だ。三井とは家族ぐるみの縁があるため、退職するときは祖母に泣かれ、三井に勤めていた父親は社内で吊し上げを食らった。
それでも退職したのには訳がある。入社して10年目、これという具体的なスキルを持たなかった私は、MBAの取得を目指すことにした。このまま三井物産にいるだけでは、三井物産が困ったときに助けられる人間にはなれない。外に出て自分を鍛えよう。いつか自分でも会社を経営してみたい。当時はそんなことを思っていた。
留学先は、スイスのIMDというビジネススクールである。そこで知り合った仲間たちに刺激を受けた。クラスメイトは約80人。世界35カ国から集まった面々だった。驚いたのは、彼らのワクワクした表情だ。
私は、清水の舞台から飛び降りるような勇気を振り絞って留学していた。健康を害したり、成績が悪かったりして、卒業できなかったらどうしよう? とビクビクしていた。ところが彼らときたら「ついに人生にチャンスが訪れた!」。私にとってはピンチなのに彼らはチャンスと捉えていた。彼らは一様に、ポジティブだった。
次のページ
MBAは無意味ではないが、経営の役には立たない >
更新:11月25日 00:05